レベルB2 · 第82課
追放された隣人リコーテ
サンチョは道中で外国人の巡礼の一行に出会います。そのうちの一人は、なんと同じ村の店主でした。

このレッスンで学ぶこと
- 追放、帰郷、祖国について、正確な言葉で話す。
- どの語が接続法を呼び込むのかを一目で見分ける。
- わかっていることとわからないことに応じて、直説法と接続法を使い分ける。
読む前に
この章では、接続法の働きをすべて復習します。新しく学ぶことはありません。見るべきことがあるだけです。つまり、文の中のどの語が接続法を呼び込んでいるか、です。望むこと、疑うこと、感じること、目的、知らない場所、まだ来ていない時。リコーテの物語にはこの六つがすべて詰まっています。彼の人生は、まだ起きていないことでできているからです。やさしいスペイン語で読む物語
Sancho iba solo por el camino, ya sin gobierno, llevando al rucio del cabestro.
もう総督ではなくなったサンチョは、ロバの端綱を引いてひとりで道を歩いていました。
Se cruzó con seis peregrinos extranjeros de los que piden limosna cantando.
彼は、歌いながら施しを乞うたぐいの外国人の巡礼者六人とすれ違いました。
Se pusieron en fila delante de él y cantaron algo que Sancho no entendió.
巡礼者たちはサンチョの前に一列に並び、サンチョにはわからない歌を歌いました。
Solo distinguió la palabra limosna, y por ella supo lo que le estaban pidiendo.
聞き取れたのは limosna という語だけでしたが、それで何を求められているのかがわかりました。
Sacó de las alforjas medio pan y medio queso y se los dio sin decir nada.
彼は鞍袋から半分のパンと半分のチーズを取り出し、黙って差し出しました。
Uno de ellos sacó una bolsa y le pidió por señas que les diera dinero.
一人が財布を取り出し、身ぶりでお金をくれと頼みました。
Sancho se puso el pulgar en la garganta para darles a entender que no tenía nada.
サンチョは親指を喉に当てて、何も持っていないことをわからせようとしました。
Al pasar, uno de los peregrinos se quedó mirándolo y le echó los brazos al cuello.
通り過ぎようとしたとき、巡礼者の一人がサンチョをじっと見つめ、首に抱きついてきました。
Lo llamó por su nombre, en voz alta y en castellano de Castilla.
その男は大きな声で、しかもカスティーリャのスペイン語でサンチョの名を呼びました。
Sancho lo miró bien y no lo conoció, hasta que el otro le dijo quién era.
サンチョはよく見ましたが誰だかわからず、相手が名乗ってようやく気づきました。
Era Ricote, el morisco que había tenido tienda en su mismo pueblo.
それはリコーテ、同じ村で店を構えていたモリスコでした。
Habían sido vecinos toda la vida, y ahora traía la barba crecida y ropa de peregrino.
二人は生涯ずっと隣人同士でしたが、今のリコーテはひげを伸ばし、巡礼者の服を着ていました。
Se apartaron los dos con los otros a una alameda, lejos del camino real.
二人はほかの者たちと一緒に街道から遠く離れたポプラの林へ移りました。
Allí soltaron los bordones y las esclavinas y comieron sentados en la hierba.
そこで彼らは杖とケープを置き、草の上に座って食事をしました。
Pusieron pan, sal, nueces, rajas de queso y unos huesos mondos de jamón.
パン、塩、くるみ、薄切りのチーズ、肉のない骨だけになったハムを並べました。
Sacaron además seis botas de vino, una cada uno, y las levantaron todos a la vez.
さらにぶどう酒の革袋を一人一つずつ、六つ取り出し、皆で同時に持ち上げました。
Bebieron con los ojos clavados en el cielo, como quien apunta a alguna parte.
彼らは目を空に釘づけにして飲みました。まるで何かに狙いを定めているかのようでした。
De vez en cuando uno le daba la mano a Sancho y le decía que eran buenos compañeros.
ときどき一人がサンチョの手を取り、自分たちはいい仲間だと言いました。
Comieron y bebieron cuatro veces sin entenderse una sola palabra.
彼らは互いにひと言も通じないまま、四度も食べては飲みました。
Cuando se acabó el vino se durmieron todos encima de los manteles.
ぶどう酒がなくなると、皆テーブルクロスの上で眠ってしまいました。
Quedaron despiertos Ricote y Sancho, que habían comido más y bebido menos.
起きていたのはリコーテとサンチョでした。二人はほかの者より多く食べ、少なく飲んでいたのです。
Se sentaron al pie de un árbol, y Ricote empezó a hablar en castellano puro.
二人は木の根もとに腰を下ろし、リコーテは混じりけのないカスティーリャ語で話し始めました。
El rey había mandado por pregón que todos los moriscos salieran de España.
国王は布告によって、すべてのモリスコがスペインを出るよう命じていました。
Ricote se había ido con su mujer y su hija, y ahora volvía disfrazado de alemán.
リコーテは妻と娘を連れて国を出ていましたが、今はドイツ人に変装して戻ってきたのです。
Contó que había pasado a Francia y de allí a Italia y a Alemania.
彼は、フランスへ渡り、そこからイタリア、そしてドイツへ行ったと語りました。
En Alemania lo habían tratado bien y allí cada uno vivía como quería.
ドイツでは手厚く扱われ、そこでは誰もが思いどおりに暮らしていました。
Nadie le preguntaba por su fe, y había dejado tomada una casa cerca de Augusta.
誰も彼の信仰を尋ねませんでした。彼はアウクスブルクの近くに家を借りてありました。
Había buscado un sitio donde pudiera llevar a su familia, y lo había encontrado.
家族を連れていける場所を探し、そしてそれを見つけたのでした。
Y aun así había vuelto, y le explicó a Sancho por qué había vuelto.
それでも彼は戻ってきました。そしてなぜ戻ってきたのかをサンチョに説明しました。
Dondequiera que estaban, dijo, lloraban por España, porque en ella habían nacido.
どこにいようとも、自分たちはスペインを思って泣いた、そこで生まれたのだから、と彼は言いました。
En ninguna parte hallaban el acogimiento que su desventura buscaba.
どこへ行っても、彼らの不幸が求める受け入れは得られませんでした。
Y en África, donde esperaban ser recibidos, era donde más los ofendían.
そして受け入れてもらえると思っていたアフリカでこそ、最もひどい仕打ちを受けたのです。
Volvía además por otra razón, que era un tesoro enterrado fuera del pueblo.
彼が戻ってきたのにはもう一つ理由がありました。村の外に埋めた宝です。
Le pidió a Sancho que lo ayudara a sacarlo y le ofreció doscientos escudos.
彼はサンチョに、それを掘り出すのを手伝ってほしいと頼み、二百エスクードを差し出しました。
Sancho dijo que no, y no porque le sobrara el dinero, que le faltaba.
サンチョは断りました。お金が余っていたからではありません。むしろ足りなかったのです。
Dijo que no quería ser codicioso ni hacer traición a su rey ayudando a los suyos.
欲深くなりたくはないし、国王の敵を助けて国王を裏切りたくもないと言いました。
Le prometió que por él no sería descubierto, y le pareció que con eso bastaba.
自分の口から秘密がばれることはないと約束し、それで十分だと思いました。
Se abrazaron y se separaron, uno hacia su pueblo y otro hacia su escondite.
二人は抱き合って別れ、一人は自分の村へ、もう一人は隠れ家へと向かいました。
Cada uno siguió andando por la misma tierra, uno como vecino y otro como extranjero.
二人はそれぞれ同じ土地を歩き続けました。一人は住民として、もう一人はよそ者として。
語彙
追放
- el morisco
- 改宗ムスリムの子孫
- desterrar
- 追放する
- el destierro
- 追放
- expulsar
- 追い出す、追放する
- el pregón
- 布告
- el decreto
- 勅令
- la patria
- 故郷
- el acogimiento
- 受け入れ
巡礼者の変装
- el peregrino
- 巡礼者
- el bordón
- 巡礼者の杖
- la esclavina
- 短いケープ
- la bota
- ワイン袋
- la alameda
- ポプラの林
- por señas
- 身ぶりで
- la barba crecida
- 伸びたひげ
- el compañero de camino
- 道連れ
サンチョがしないこと
- codicioso
- 欲深い
- la traición
- 裏切り
- descubrir a alguien
- 人の秘密をばらす
- el escondite
- 隠れ家
- el cuñado
- 義理の兄弟
- faltar el dinero
- お金が足りない
- hacer traición
- 裏切る
- bastar
- 足りる、十分である
接続法をまとめて
Buscó un sitio donde pudiera llevar a su familia.
El rey mandó que todos saliesen de España.
Dondequiera que estamos, lloramos por España.
このレッスンに新しいことはありません。ここまでで接続法のすべてにばらばらに出会ってきたので、今回は仕組み全体を一度に見渡すのがねらいです。接続法を選ぶのは動詞自身ではありません。文の前のほうにある何かが接続法を呼び込みます。そしてその呼び込み役は六種類あります。
| 呼び込み役 | この章から | 理由 |
|---|---|---|
| 働きかけ:querer, mandar, pedir, rogar | El rey mandó que todos saliesen. | 出ていくことは望まれているだけで、事実として述べられてはいない |
| 感情:alegrarse, doler, pesar, temer | Le pesaba que lo hubieran echado. | 事実が感情を通して語られている |
| 疑い・否定:no creer, dudar, negar | No creía que volviera. | 帰ってくることが断言されていない |
| purpose: para que, a fin de que, sin que | Se disfrazó para que no lo conocieran. | 目的はまだ実現していない |
| 不特定の先行詞 | Buscaba un sitio donde pudiera vivir. | その場所はまだ特定されていない |
| future time: cuando, en cuanto, hasta que | Cuando vuelva, sacará el tesoro. | その時はまだ来ていない |
同じ語で、両方の使い方
呼び込み役の多くは、決まりというよりスイッチです。わかっていることが変われば、法もそれに合わせて変わります。
| 接続法 | 直説法 |
|---|---|
| Busco un pueblo donde nadie me conozca. (any village) | Busco el pueblo donde nací.(特定の場所) |
| Cuando vuelva, lo sacaremos.(まだ先のこと) | Cuando volvía, lo sacábamos. (habit, past) |
| No creo que sea de aquí. | Creo que es de aquí. |
| Dondequiera que vayamos, seremos extranjeros. (unknown) | Dondequiera que estamos, lloramos. (fact) |
-quiera の仲間
Dondequiera、quienquiera、comoquiera、cualquiera。現代のスペイン語では、これらのあとにはほぼ必ず接続法が来ます。リコーテのせりふが直説法なのは古い用法で、仮定の話ではなく今まさに起きていることを述べているので残っています。自分で話すときは接続法を使いましょう。dondequiera que estés、quienquiera que sea。
モリスコの追放
これは作り話ではありません。1609年から1614年にかけて、スペイン王室はモリスコを追放しました。モリスコとは、その百年前に強制的に洗礼を受けさせられたムスリムの子孫で、当時は法的にはキリスト教徒であり、王の臣民でした。およそ三十万人が船に乗せられるか、国境まで歩かされました。バレンシアとアラゴンは人口の四分の一を失い、それとともに農業も失いました。セルバンテスがこの章を出版したのは1615年、最後の船団が出てから数か月後のことでした。
セルバンテスのこの題材の扱い方は慎重で、読者の間では今も議論が続いています。リコーテは追放をはっきりと擁護します。正当な罰だと言い、国王の決定は神の霊感によるものだと述べます。1615年に活字にするなら彼の立場の人間はそう言うしかなく、出版の許可を得るにはどんな本にもそれが書かれていなければなりませんでした。そのうえでセルバンテスは、どこにいてもスペインを思って泣くというもう一つの言葉を彼に語らせ、それに誰も答えないまま置いておきます。ドイツはこの箇所で、信仰を問われることなく思いどおりに暮らせる場所として描かれています。対抗宗教改革のスペインで、これは決して中立的な書き方ではありません。
サンチョの答えは正確に見積もる価値があります。彼はお金を断ります。理由は二つ、欲深さと国王への忠誠です。手伝うとも言いません。けれども隣人を告発もせず、そのことをはっきり口にします。「わしの口からばれることはない」と。権力から立ち去ったばかりの男がする、ささやかな良識の行いです。そしてセルバンテスはそれを、実際より大きなものに飾り立てたりはしません。
セルバンテスの原文で · «Doquiera que estamos lloramos por España, que…»
Doquiera que estamos lloramos por España, que, en fin, nacimos en ella y es nuestra patria natural.
どこにいても、わたしたちはスペインを思って泣くのです。結局のところ、わたしたちはそこで生まれ、そこが生まれ故郷なのですから。
スペインに追放されたばかりの男が、スペインについてスペイン語で、野原の真ん中で、助けてくれない隣人に向かってこう語ります。文法にも注目する価値があります。Doquiera que estamos は直説法で、現代の話し手なら使うはずの接続法ではありません。仮定の話をしているのではないからです。これは毎日、たどり着くどの国でも、実際に彼らの身に起きていることなのです。次の que, en fin は話し言葉で「つまるところ、結局は」という意味です。そして最後の patria natural は、選ぶのではなく生まれることで得る祖国です。この最後の語句が、二語で語られた主張そのものです。勅令はモリスコを、残ることを許されていた外国人として扱いました。リコーテは、誰も生まれる場所は選べないと答えます。そしてセルバンテスは、最後の船が出てから四年後にそれを活字にしたのです。
