レベルB2 · 第83課
ロドリゲス夫人の決闘
夜中に侍女頭がドン・キホーテの部屋に裁きを求めてやって来ます。そこから生まれた決闘は、結婚で幕を閉じます。

このレッスンで学ぶこと
- dar por と darse por を過去分詞と一緒に使って、話に決着をつける。
- 決闘の申し込みと降参の決まり文句を見分ける。
- 名誉、侮辱、交わした約束について話す。
読む前に
決闘の決まり文句に注目しましょう。ほとんどすべてが同じ作りで、dar por または darse por に過去分詞を続けます。me doy por vencido、lo daban por bien hecho、se da por satisfecho。小さな構文ひとつで、三語で議論に決着がつきます。やさしいスペイン語で読む物語
Una noche, en el castillo de los duques, don Quijote oyó abrirse la puerta de su cuarto.
ある夜、公爵夫妻の城で、ドン・キホーテは部屋の戸が開く音を聞きました。
Se levantó en la cama con la espada en la mano, temiendo algún encantamiento.
何かの魔法ではないかと恐れ、彼は剣を手に寝台の上で身を起こしました。
Lo que entró fue una dueña de luto con una vela encendida, temblando tanto como él.
入ってきたのは、火のともったろうそくを持った喪服姿の侍女頭で、彼と同じくらい震えていました。
Era doña Rodríguez, la dueña más antigua de la casa, y venía a hablarle en secreto.
それは屋敷で一番古株の侍女頭ロドリゲス夫人で、内密に話をしに来たのでした。
Se sentó a los pies de la cama, y lo que traía no era un encantamiento sino un agravio.
彼女は寝台の足もとに腰を下ろしました。持ってきたのは魔法ではなく、ひとつの不当な仕打ちでした。
Tenía una hija, y un hijo de labrador rico, vecino del duque, le había dado palabra de casamiento y luego se había negado a cumplirla.
彼女には娘がいて、公爵の領内に住む裕福な農夫の息子が娘に結婚の約束をしたのに、そのあと約束を守ることを拒んだのです。
Ella había pedido justicia al duque muchas veces, y el duque se hacía el sordo.
彼女は何度も公爵に裁きを求めましたが、公爵は聞こえないふりをしていました。
El padre del muchacho le prestaba dinero y le salía fiador de sus deudas.
若者の父親は息子にお金を貸し、借金の保証人にもなっていました。
De modo que venía a pedirle a don Quijote lo único que le quedaba por pedir.
そこで彼女は、頼めることとして残された唯一のことをドン・キホーテに頼みに来たのです。
Que deshiciera el agravio por las armas, ya que por la ley no se podía.
法では無理なのだから、武力でその不正を正してほしいと。
Don Quijote se lo prometió allí mismo, con la vela todavía encendida entre los dos.
ドン・キホーテは、ろうそくがまだ二人の間で燃えているうちに、その場で約束しました。
Su promesa era la de su oficio, amparar a las doncellas y defender a las viudas.
その約束は彼の務めが求めるもの、すなわち乙女をかばい、未亡人を守ることでした。
Al día siguiente lo dijo en público, delante del duque y de toda la casa.
翌日、彼は公爵と屋敷じゅうの人々の前で、それを公に宣言しました。
Echó el guante al suelo y desafió al burlador a combate singular, a caballo y con lanza.
彼は手袋を地面に投げ、その女たらしに馬上で槍を用いた一騎打ちを申し込みました。
Pelearían hasta que el otro confesara la verdad o hasta que uno de los dos muriera.
相手が真実を認めるか、二人のどちらかが死ぬまで戦うというのです。
El duque aceptó ser juez del campo y señaló plazo y lugar para el desafío.
公爵は試合の審判を引き受け、決闘の期限と場所を定めました。
Se levantó una estacada en una plaza del castillo y se colgaron banderas de los balcones.
城の広場のひとつに試合場の囲いが作られ、バルコニーからは旗が下げられました。
Doña Rodríguez y su hija tomaron asiento, cubiertas con velos hasta los ojos.
ロドリゲス夫人と娘は、目のところまでヴェールで覆って席に着きました。
El maestro de ceremonias paseó el campo entero para que no hubiese engaño ni tropiezo.
進行役は、ごまかしやつまずきがないよう、試合場をくまなく歩いて確かめました。
El agraviador no apareció, porque estaba en Flandes y no pensaba volver.
不正を働いた当人は現れませんでした。フランドルにいて、戻るつもりもなかったのです。
En su lugar salió armado un lacayo del duque que se llamaba Tosilos.
代わりに、トシロスという公爵の従僕が甲冑を着けて出てきました。
Le habían mandado presentarse en el campo, vencer sin matar y acabar todo con una risa.
彼は、試合場に出て、殺さずに勝ち、すべてを笑いで終わらせるよう命じられていました。
Venía sobre un caballo grandísimo, con la visera calada y unas armas relucientes.
彼は巨大な馬に乗り、面頬を下ろし、甲冑をきらめかせてやって来ました。
Antes de tomar su puesto se paró un momento a mirar a la que le pedían por esposa.
位置に着く前に、彼は少し立ち止まり、妻にと求められている娘を見つめました。
El maestro de ceremonias les partió el sol y los puso a cada uno en su sitio.
進行役は、日差しが公平になるよう二人に場所を割り振り、それぞれを持ち場に着かせました。
Sonó la trompeta, y don Quijote arrancó a todo el correr que permitía Rocinante.
ラッパが鳴り、ドン・キホーテはロシナンテが出せるかぎりの速さで突進しました。
Tosilos, en cambio, no se movió un paso de su puesto ni bajó la lanza.
ところがトシロスは持ち場から一歩も動かず、槍も下ろしませんでした。
Llamó a voces al juez del campo y le preguntó si aquella batalla era por casarse o no casarse.
彼は大声で審判を呼び、この戦いは結婚するかしないかをめぐるものなのかと尋ねました。
Le dijeron que sí, y él contestó que se daba por vencido y que se casaba con la muchacha.
そうだと言われると、彼は降参する、その娘と結婚すると答えました。
Don Quijote se detuvo en mitad de su carrera y dijo que quedaba libre de su promesa.
ドン・キホーテは突進の途中で止まり、自分は約束から解放されたと言いました。
El duque bajó a la plaza, colérico, y le preguntó si de verdad se daba por rendido.
公爵は怒って広場に降りてきて、本当に降参するのかとトシロスに尋ねました。
A Tosilos le faltaba el aire y pidió que le quitasen la celada deprisa.
トシロスは息が苦しくなり、急いで兜を脱がせてくれと頼みました。
Se la quitaron, y quedó a la vista de todos su cara de lacayo del duque.
兜を脱がせると、皆の目の前に公爵の従僕の顔が現れました。
La dueña y su hija gritaron que aquello era engaño y pidieron justicia del rey.
侍女頭と娘は、これはぺてんだと叫び、国王による裁きを求めました。
Don Quijote dijo que no era engaño sino obra de los encantadores que lo perseguían.
ドン・キホーテは、ぺてんではなく、自分を追い回す魔法使いたちのしわざだと言いました。
El duque mandó encerrar a Tosilos quince días, por ver si volvía a su figura primera.
公爵は、トシロスがもとの姿に戻るかどうか見るために、彼を十五日間閉じ込めさせました。
Y la hija dijo que prefería ser mujer legítima de un lacayo a burlada de un caballero.
そして娘は、騎士にもてあそばれて捨てられるより、従僕の正式な妻になるほうがいいと言いました。
語彙
名誉と侮辱
- el agravio
- 不当な仕打ち
- deshacer un agravio
- 不正を正す
- la palabra de casamiento
- 結婚の約束
- el burlador
- 女をだます男
- amparar
- かばう、守る
- hacerse el sordo
- 聞こえないふりをする
- el fiador
- 保証人
- burlada
- だまされて捨てられた(女性)
決闘の決まり
- el desafío
- 決闘の申し込み
- echar el guante
- 手袋を投げる(決闘を申し込む)
- el plazo
- 期限
- la estacada
- 試合場
- el juez del campo
- 試合の審判
- el maestro de ceremonias
- 儀式の進行役
- partir el sol
- 日差しが公平になるよう戦う二人の位置を決める
- el combate singular
- 一騎打ち
戦いの結末
- el lacayo
- 従僕
- la visera
- 面頬
- la celada
- 兜
- rendirse
- 降参する
- darse por vencido
- 負けを認める
- quedar libre de
- 〜から解放される
- a la vista de todos
- 皆の目の前で
- la mujer legítima
- 正式な妻
Dar por と darse por
Me doy por vencido y me caso con esa señora.
Todo lo que hiciera lo daban por bien hecho.
Malambruno se da por contento con solo intentarlo.
Dar por に過去分詞を続けると、証明されたかどうかにかかわらず、あることを決着済みとみなすという意味になります。短く、話し言葉のスペイン語のいたるところに出てきますが、ぴったり対応する英語の動詞はひとつもありません。
| スペイン語 | 英語 |
|---|---|
| Dar algo por hecho | あることを当然とみなす |
| Dar por bueno un resultado | 結果を有効と認める |
| Dar a alguien por muerto | 人を死んだものとあきらめる |
| Dar por terminada la reunión | 会議の閉会を宣言する |
再帰の形、つまり決闘の決まり文句
se を加えると、主語が自分自身について何かを宣言することになります。戦いの終わり方、言い争いの終わり方、そしてスペイン人が「もうやめた」と伝える言い方がこれです。
| スペイン語 | 英語 |
|---|---|
| Me doy por vencido. | 参った、降参だ。 |
| Me doy por satisfecho. | それで十分だ。 |
| Se dio por aludido. | 自分のことを言われたと受け取った。 |
| No se dio por enterado. | 気づかなかったふりをした。 |
このうち二つは丸ごと覚える価値があります。Darse por aludido は、誰の名も挙げなかった発言が明らかに自分を指していたときに使います。No darse por enterado は、わざと知らんぷりをする礼儀正しい技で、この章の前半ずっと、公爵はロドリゲス夫人に対してこれをしています。
一致
過去分詞は宣言される対象に一致するので、性と数によって変わります。Se dio por vencido、se dio por vencida、se dieron por vencidos。これは決して形の変わらない haber のあとの過去分詞とは違います。形容詞であり、形容詞と同じようにふるまいます。
決闘のほかの決まり文句
| 言い方 | 働き |
|---|---|
| echar el guante | 決闘を申し込む。今でもあらゆる対決に使われる |
| juez del campo | 公正な戦いを保証する人 |
| partir el sol | どちらも日差しが目に入らないよう戦う二人を配置する |
| campo franco | 合法な決闘のために与えられた場所 |
| quedar libre y suelto de mi promesa | 誓いから解放されるときの決まり文句 |
守られたのに無駄に終わった決闘の決まり
セルバンテスは儀式の手順をひとつ残らず正確に描いています。しかも意図的にです。試合の審判、日数の期限、囲いのある試合場、隠れた穴がないか地面を歩いて確かめる伝令役、旗、ヴェールをかぶった訴え人、どちらの戦士も目がくらまないよう分けられた日差し、そしてラッパ。騎士道の手引書が描く裁判上の決闘の手続きそのものです。公爵は槍の穂先まで外させ、トリエント公会議を引き合いに出します。この公会議は実際に1563年に決闘を禁じていたので、この場面は儀式の面だけでなく法的にも正確なのです。そしてその装置全体が、娘をひと目見て結婚するほうがいいと決めた一人の従僕によって崩されてしまいます。
その下にある訴えは、少しも笑いごとではありません。スペインの法律では結婚の約束はほとんど拘束力を持ち、約束のあとで捨てられた娘は、お金か結婚のほかに救いようのない形で身を滅ぼしました。ロドリゲス夫人はその土地で裁きを司る人に訴えましたが、断られました。残酷だからではなく、加害者の父親が公爵の債権者だからです。この章から心に留めておきたいのはこの一文です。正義を拒んでいるのは悪人ではなく、借金を抱えた男が静かに見て見ぬふりをしているのです。
最後の言葉は娘に与えられ、セルバンテスはそれを飾らずに語らせます。自分の味方が借り物の甲冑を着た召使いだと聞かされると、娘は、騎士にだまされた愛人になるより、従僕の正式な妻になるほうがいいと言います。誰も反論しません。公爵は冗談をまだ取り戻せるのではないかと期待してトシロスを十五日間閉じ込め、何ひとつわかっていないドン・キホーテは、すべてを魔法使いのせいにします。
セルバンテスの原文で · «Quitáronsela apriesa, y quedó descubierto y patente…»
Quitáronsela apriesa, y quedó descubierto y patente su rostro de lacayo.
すぐにそれが外されると、従僕の顔があらわになり、はっきりと見えました。
たった十一語で、二章にわたる儀式が崩れ去ります。文の形に注目しましょう。quitáronsela は代名詞を動詞の後ろにつけています。これは古い語順で、この時代の物語の散文ではまだ普通のものでした。しかも「彼らはそれを彼から取った」という三つの要素を一語に詰め込んでいます。次に quedó。これはスペイン語で、ある行為のあとに残った状態を表す動詞です。そのあとに形容詞の役をする二つの過去分詞 descubierto y patente が続きます。この重ね方は意図的で、公証人が書くような法律めいた言い回しです。だからこそ、しぼんでいく落差がいっそう大きくなります。このエピソードではすべてが正しく整っていました。審判、期限、試合場、分けられた日差し、ラッパ。ところが兜の下にいたのは、言われたとおりに動く召使いでした。彼の顔に風が当たった瞬間、仕掛け全体が誰かの午後の暇つぶしにすぎなかったことが明らかになるのです。
