レベルB2 · 第81課

サンチョ、総督の職を去る

夜中に島が攻撃されていると叫んで起こされ、二枚の板のあいだに縛りつけられ、朝には一文も持たずに去っていきます。

ギュスターヴ・ドレの版画:地面に倒れ、馬方に槍で打たれるドン・キホーテ。絹商人たちが馬上から眺めている。
Gustave Doré, 1863. Public domain.

このレッスンで学ぶこと

読む前に

si のあとではないところに出てくる hubiera と hubiese に注目しましょう。ojalá のあと、como si のあと、そして過去の感情や疑いを表す動詞のあとに出てきます。形は前のレッスンで出会ったものと同じです。役割が新しいのです。

やさしいスペイン語で読む物語

La séptima noche de su gobierno, Sancho dormía en la cama del gobernador de Barataria.

統治を始めて七日目の夜、サンチョはバラタリアの総督の寝台で眠っていました。

No estaba harto de pan ni de vino, sino de juzgar y de hacer ordenanzas.

彼がうんざりしていたのはパンでもぶどう酒でもなく、裁きを下すことと条例を作ることでした。

De pronto lo despertaron campanas, gritos y trompetas, como si se hundiera la ínsula entera.

突然、鐘の音や叫び声、ラッパの音で目を覚ましました。まるで島全体が沈んでいくかのようでした。

Salió a la puerta del aposento y vio venir más de veinte personas con hachas encendidas.

部屋の戸口に出てみると、二十人以上の人々が火のついた松明を手にやって来るのが見えました。

Traían las espadas desnudas y gritaban que habían entrado enemigos en la ínsula.

彼らは抜き身の剣を持ち、敵が島に侵入したと叫んでいました。

Le dijeron que se armara y que saliera a la plaza a ser su capitán y su guía.

彼らはサンチョに、武装して広場に出て、自分たちの隊長となり導き手となってほしいと言いました。

Sancho contestó que él de armas no entendía nada y que aquello era cosa de su amo.

サンチョは、自分は武器のことは何もわからない、それは主人の仕事だと答えました。

Le trajeron dos paveses grandes y se los pusieron encima de la camisa, uno delante y otro detrás.

彼らは大きな盾を二枚持ってきて、シャツの上から一枚を前に、もう一枚を後ろにつけました。

Se los liaron con unas cuerdas tan apretadas que quedó emparedado entre las dos tablas.

その盾をきつく縄で縛りつけたので、サンチョは二枚の板の間に閉じ込められてしまいました。

Quedó derecho como un huso, sin poder doblar las rodillas ni dar un solo paso.

彼は紡錘のようにまっすぐになり、膝を曲げることも一歩踏み出すこともできませんでした。

Le pusieron una lanza en las manos y le mandaron caminar delante de todos.

彼らはサンチョの手に槍を持たせ、皆の先頭を歩くよう命じました。

Quiso andar y se cayó al suelo de un golpe tan grande que se creyó hecho pedazos.

歩こうとしたとたん、ものすごい音を立てて床に倒れ、体がばらばらになったかと思いました。

Allí se quedó, boca abajo dentro de su caparazón, como un galápago entre sus conchas.

そこで彼はうつぶせのまま甲羅の中にいました。まるで甲羅に収まった亀のようでした。

Apagaron las antorchas y volvieron a gritar más fuerte que antes.

人々は松明を消し、前よりもいっそう大声で叫び始めました。

Corrían todos por encima de él en la oscuridad y le daban cuchilladas sobre las tablas.

皆が暗闇の中でサンチョの上を走り回り、剣で板を打ちつけました。

Uno se le subió encima un buen rato y desde allí, como desde una torre, mandaba los ejércitos.

ある男はしばらくの間サンチョの上に乗り、そこからまるで塔の上にいるかのように軍勢を指揮しました。

Gritaba que trincheraran las calles con colchones y que trajeran calderas de aceite ardiendo.

男は、通りをマットレスでふさげ、煮えたぎる油の大釜を持ってこいと叫んでいました。

Sancho, debajo, sudaba y pedía a Dios que se acabase de perder aquella ínsula.

下敷きになったサンチョは汗をかきながら、いっそこの島がすっかり失われてしまえばいいと神に祈りました。

Duró aquello una hora larga, hasta que empezaron a gritar victoria y a llamarlo invencible.

それはたっぷり一時間続き、やがて人々は勝利を叫び、サンチョを無敵の人と呼び始めました。

Lo desliaron, le dieron un trago de vino y él se desmayó del susto y del trabajo.

人々が縄をほどいてぶどう酒を一杯飲ませると、サンチョは恐怖と疲れで気を失いました。

A los burladores ya les pesaba que la burla hubiera salido tan pesada.

いたずらをした者たちも、冗談が度を越してしまったことをもう後悔していました。

Cuando volvió en sí preguntó qué hora era, y le dijeron que ya amanecía.

意識が戻ると、サンチョは今何時かと尋ね、もう夜が明けるところだと告げられました。

Calló, y sin decir una palabra más empezó a vestirse muy despacio.

彼は黙り込み、それ以上ひと言も言わずに、ゆっくりと服を着始めました。

Fue derecho a la caballeriza, donde estaba el rucio, y lo abrazó y le besó la frente.

彼はまっすぐ厩舎へ行き、そこにいたロバを抱きしめて額に口づけしました。

Le habló como a un compañero, y le dijo que ojalá no hubiera dejado nunca los caminos.

彼はロバに仲間のように話しかけ、街道を離れなければよかったと言いました。

Mientras habían andado juntos, su único cuidado había sido remendarle los aparejos.

一緒に旅をしていた頃は、ロバの馬具を繕うことだけが心配ごとでした。

Desde que había subido a las torres de la ambición y de la soberbia, se le habían metido mil miserias en el alma.

野心と傲慢の塔に登って以来、千もの苦しみが魂に入り込んでしまったのです。

Luego volvió a la sala y habló a todos los que lo habían servido aquella semana.

それから広間に戻り、その週に仕えてくれた人々全員に話しかけました。

Les pidió que le abrieran camino y que lo dejaran volver a su antigua libertad.

彼は道を開けて、かつての自由に戻らせてほしいと頼みました。

Dijo que él no había nacido para gobernador ni para defender ínsulas de enemigos.

自分は総督になるためにも、敵から島を守るためにも生まれてきたのではないと言いました。

Le pidieron que se quedara, y él contestó que se le daba mejor la hoz que el cetro.

人々は残ってほしいと頼みましたが、サンチョは笏よりも鎌のほうがうまく扱えると答えました。

Prefería hartarse de gazpachos a estar sujeto a un médico impertinente que lo mataba de hambre.

腹をすかせる医者の言いなりになるより、ガスパチョを腹いっぱい食べるほうがいいと言うのです。

El mayordomo le recordó que todo gobernador tiene que dar residencia antes de irse.

執事は、どの総督も去る前には在任審査を受けなければならないと念を押しました。

Sancho respondió que saliendo desnudo, como salía, no hacía falta otra señal.

サンチョは、自分はこのとおり裸一貫で出ていくのだから、ほかの証拠などいらないと答えました。

Salió de la ínsula como había entrado, sin blanca y sin haber tocado un solo cohecho.

彼は入ってきたときと同じように、一文無しで、賄賂ひとつ受け取らずに島を去りました。

Si hubiera querido robar, habría podido hacerlo aquella semana sin que nadie lo notara.

盗もうと思えば、その週のうちに誰にも気づかれずに盗むことができたはずです。

Solo pidió un poco de cebada para el rucio y medio queso y medio pan para él.

彼が求めたのは、ロバのための少しの大麦と、自分のための半分のチーズと半分のパンだけでした。

Se ató las alforjas y se fue por el camino, más ligero que un gobernador y mucho más contento.

鞍袋を結びつけると、総督だったときより身軽に、ずっと晴れやかな気持ちで道を去っていきました。

語彙

偽の襲撃

el pavés
大盾
liar
縛りつける
emparedado
壁に閉じこめられた
el huso
紡錘
el caparazón
甲羅
el galápago
カメ
la antorcha
たいまつ
la espada desnuda
抜き身の剣

ロバとの別れ

la caballeriza
馬小屋
remendar
繕う
los aparejos
馬具
la ambición
野心
la soberbia
傲慢
la miseria
みじめさ、苦しみ
el compañero
仲間
la antigua libertad
かつての自由

潔白のまま去る

la hoz
鎌
el cetro
王笏
el gazpacho
ガスパチョ
la residencia
在任審査
el cohecho
賄賂
sin blanca
一文無しで
la cebada
大麦
ligero
身軽な

si のない文で使う hubiera

Ojalá no hubiera dejado nunca los caminos.

Gritaban como si se hubiera hundido la ínsula entera.

Les pesaba que la burla hubiera salido tan pesada.

hubiera には、ありえない条件文の si の側ですでに出会いました。でもそれは役割のひとつにすぎず、おそらく一番よく使われるものでもありません。本来の仕事は複合時制の接続法過去になることです。つまり、接続法が必要で、しかもその出来事がすでに終わっている場面ならどこにでも現れます。

引き金例意味
ojaláOjalá no hubiera aceptado la ínsula.しなければよかったのに、してしまった
como siGritaba como si lo hubieran herido.傷つけられたかのように。実際はそうではない
感情、過去の場合Le pesaba que hubieran hecho aquello.彼らがそうしたことを彼は悔やんだ
疑い・否定、過去の場合No creía que hubiese robado nada.彼がそうしたとは思わなかった
命令・願望、過去の場合Quería que se hubiera ido antes.もっと早く行っていてほしかった
que を伴う最上級La peor noche que hubiera pasado nunca.それまでに過ごした中で最悪の夜

Como si は形が決まっているので覚える価値あり

Como si のあとには直説法も接続法現在も来ません。来るのは -ra または -se の形だけです。como si fuera、como si tuviera、como si hubiera pasado。主節の動詞が現在形でも同じです。habla como si hubiera estado allí「まるでそこにいたかのように話す」。

Ojalá と三つの時間軸

形例意味
ojalá + present subjunctiveOjalá venga.来るといいな(まだ可能性がある)
ojalá + imperfect subjunctiveOjalá viniera.来てくれればいいのに(見込みは薄い)
ojalá + hubiera + participleOjalá hubiera venido.来てくれればよかったのに(もう手遅れ)

この語はアラビア語の law šā llāh「神が望むならば」から来ています。だからこそ、そもそも接続法をとるのです。

在任審査と、盗まなかった総督

juicio de residencia はこの章のために作られたものではありません。スペイン帝国に実在した制度です。任期の終わりに、corregidor(代官)、総督、副王はみなその地にとどまり、判事が苦情を聞き、帳簿を監査しました。アメリカ大陸の行政全体がこの仕組みで動いていました。ですから、執事が戸口でサンチョを引き止めて residencia を求めるのは本物の規則を当てはめているのであり、サンチョの返答も冗談ではなく法的な主張なのです。何も持たずに去ること自体が監査になっているのです。

セルバンテスはこの世界を、いわば裏側から知っていました。何年も穀物や油の徴発係を務め、その後アンダルシアで徴税吏となり、帳尻の合わない会計のせいで少なくとも二度投獄されています。一度は、資金を預けていた銀行家が破産したためでした。何も持たずに入り、何も持たずに出ていくという一文は、硬貨一枚まで説明を求められた人の言葉なのです。

結末はゆっくり読んでください。セルバンテスは順序を意図的に組み立てています。サンチョはまず辞任を告げてからロバに別れを言うのではありません。先にひとりで厩舎へ行き、人間の誰よりも先に動物に話しかけます。そこで語る言葉は、作品全体を通じて彼が口にするもっとも格式ばった話で、街道と野心の塔の対比の上に組み立てられています。そしてそれはロバに向けられているのです。屋敷の誰ひとり、それに値するとは見なされていません。

セルバンテスの原文で · «digan al duque mi señor que, desnudo nací…»

digan al duque mi señor que, desnudo nací, desnudo me hallo: ni pierdo ni gano; quiero decir, que sin blanca entré en este gobierno y sin ella salgo

公爵さまにお伝えください。裸で生まれて裸のまま、損もしなければ得もしていません。つまり、一文なしでこの総督の職に就き、一文なしで去るということです

サンチョはことわざを引用し、そのすぐあとに自分で説明しています。彼がめったにしないことです。Desnudo nací, desnudo me hallo は『ヨブ記』にさかのぼる決まり文句で、失ったものを気にしないという意味でスペイン語に広まっていました。続いて quiero decir が来て、後半はそのイメージを帳簿の話に変えます。お金は入らず、出てもいかない。農夫のことわざと、帳簿を提出する人の申し立てという二つの調子を同時に使っているのです。重みを担うのは blanca という語です。当時流通していた一番小さな硬貨で、価値がほとんどなかったため、estar sin blanca という表現は硬貨の記憶が消えた今もスペイン語に残っています。しかもこの主張は当時としては重大なものでした。就任時より豊かにならずに職を去る総督は、知らせる価値があるほど珍しかったのです。だからこそセルバンテスは、その言葉を公爵に伝えてくれるようサンチョに頼ませています。

この文法項目を単独のページで

短い答え、ほかのレッスンでの同じ項目、そして避けたい間違い。

このスペイン語をセルバンテスの原文で

学んだばかりの項目が原文で使われている一節を、手を加えずに、形をひとつずつ解説しながら読みます。