レベルB2 · 第90課

物語の終わり

ラ・マンチャの村から針金に掛けられたペンまで、小説の全体を一ページで。そしてこれでコースが終わります。

ギュスターヴ・ドレの版画:槍を手にした一人の騎士が、騎士道の幻があふれる雲の下、夜明けの広大な平原を馬で渡っていく。
Gustave Doré, 1863. Public domain.

このレッスンで学ぶこと

読む前に

この最後の文章には、新しい文法はありません。使われているものはすべてもう学んだもので、それを証明するために書かれています。まず止まらずに一度通して読み、それから戻って、自分でも書けたのはどれくらいかを確かめましょう。その差がどれほどの大きさであっても、それが今の自分の位置を正直に示す物差しです。

やさしいスペイン語で読む物語

Todo empezó en un lugar de la Mancha cuyo nombre el autor no quiso recordar.

すべては、作者が名前を思い出したくなかったラ・マンチャのある村で始まりました。

Vivía allí un hidalgo de unos cincuenta años, flaco, madrugador y aficionado a la caza.

そこに五十歳ほどの郷士が住んでいました。やせていて、早起きで、狩りが好きでした。

Tenía una casa, una sobrina, un ama, un mozo de campo y unos pocos libros.

家が一軒、姪がひとり、家政婦がひとり、畑の若者がひとり、それに本が少しありました。

De tanto leerlos y de dormir tan poco, acabó por secársele el cerebro.

本を読みすぎ、眠らなさすぎたせいで、ついに脳が干からびてしまいました。

Se armó con las armas oxidadas que habían sido de sus bisabuelos.

曾祖父母のものだったさびた武具で身を固めました。

Puso nombre a su caballo, se puso otro a sí mismo y eligió dama en un pueblo vecino.

馬に名前をつけ、自分にも別の名をつけ、隣村に思い姫を選びました。

Salió al campo antes de amanecer, a deshacer agravios y a enderezar entuertos.

夜明け前に野へ出かけました。不正をただし、ゆがんだものをまっすぐにするためです。

Confundió ventas con castillos y molinos de viento con gigantes de brazos larguísimos.

宿屋を城と、風車をとてつもなく長い腕の巨人と取り違えました。

Confundió rebaños con ejércitos y una bacía de barbero con el yelmo de Mambrino.

羊の群れを軍勢と、床屋の金だらいをマンブリーノの兜と取り違えました。

En la segunda salida se llevó consigo a un labrador de su pueblo, Sancho Panza.

二度目の旅立ちでは、村の農夫サンチョ・パンサを連れていきました。

Le prometió una ínsula, y Sancho lo siguió por eso y también por curiosidad.

彼は島を約束し、サンチョはそのために、そして好奇心からもついていきました。

Desde entonces la novela son dos hombres hablando por los caminos de Castilla.

そこから先、この小説はカスティーリャの道を語り合いながら行く二人の男の話になります。

Uno de ellos ve lo que ha leído y el otro ve lo que tiene delante.

ひとりは本で読んだものを見て、もうひとりは目の前にあるものを見ます。

Ninguno de los dos convence del todo al otro en mil páginas de conversación.

千ページにわたって話し合っても、どちらも相手を完全には説得できません。

Entre una venta y la siguiente cabía media España de aquel siglo.

宿屋から次の宿屋までのあいだに、あの時代のスペインの半分が収まっていました。

Cabían cabreros, galeotes, curas, barberos, moriscos, duques, bandoleros y una imprenta.

山羊飼い、ガレー船の漕役囚、司祭、床屋、モリスコ、公爵、山賊、そして印刷所までが収まっていました。

Y cabía además un truco que no había hecho nadie antes que Cervantes.

さらに、セルバンテス以前には誰もやったことのない仕掛けまで収まっていました。

En la segunda parte, los que se cruzan con don Quijote han leído ya la primera.

後編では、ドン・キホーテに出会う人々がすでに前編を読んでいます。

Saben quién es antes de verlo y le preparan las aventuras de antemano.

会う前から彼が誰かを知っていて、冒険を前もって用意しておきます。

Los duques lo hospedaron para reírse de él y le montaron un teatro entero.

公爵夫妻は彼を笑いものにするために館に迎え、まるごとひとつの芝居を仕立てました。

Hubo un caballo de madera que volaba, una dueña con barbas y una ínsula de mentira.

空を飛ぶ木馬があり、ひげの生えた侍女頭がいて、作りものの島がありました。

Pero la burla se les torció, porque el gobernador falso gobernó bien.

けれどもいたずらは裏目に出ました。偽の総督が立派に治めたからです。

Juzgó con tino, no robó nada y se marchó de allí por su propio pie.

的確に裁き、何ひとつ盗まず、自分の足で去っていきました。

Dijo al irse que él no había nacido para gobernar, sino para arar y comer.

去り際に、自分は治めるためではなく、畑を耕して食べるために生まれたのだと言いました。

Al final, en la playa de Barcelona, un vecino suyo disfrazado lo derribó.

最後に、バルセロナの浜辺で、変装した同じ村の男が彼を打ち倒しました。

Le hizo prometer que volvería a casa y no tomaría las armas en un año.

その男は彼に、家に帰り、一年間は武器を取らないと約束させました。

En el suelo y sin poder levantarse, podía salvarse mintiendo, y no mintió.

地面に倒れて起き上がれず、嘘をつけば助かったのに、彼は嘘をつきませんでした。

Sostuvo que Dulcinea era la más hermosa y pidió la muerte antes que la palabra.

ドゥルシネーアこそ最も美しいと言い張り、前言を翻すくらいなら死を求めました。

Volvió a su pueblo despacio, por el mismo camino por donde había salido.

出ていったのと同じ道を通って、ゆっくりと村へ帰りました。

Quiso hacerse pastor, se le echó encima una fiebre y recobró el juicio.

羊飼いになろうとしましたが、熱に倒れ、正気を取り戻しました。

Renegó de los libros que lo habían enloquecido y volvió a llamarse Alonso Quijano.

自分を狂わせた本を捨て、ふたたびアロンソ・キハーノと名乗りました。

Hizo testamento delante de un escribano y murió en su cama, cuerdo y sosegado.

公証人の前で遺言を作り、正気で、心安らかに、自分の寝床で死にました。

Sancho, que había empezado creyendo en la ínsula por interés, lloró más que nadie.

欲得ずくで島を信じはじめたサンチョが、誰よりも泣きました。

Fue el único que en el último momento le pidió que siguiera loco un poco más.

最後の瞬間に、もう少しだけ狂ったままでいてほしいと頼んだのは、彼ひとりでした。

Cervantes cerró el libro colgando su propia pluma de un alambre.

セルバンテスは、自分のペンを針金に掛けて本を閉じました。

Le mandó quedarse allí y no dejar que nadie moviera a su caballero de la sepultura.

ペンにそこにとどまるよう命じ、誰にも自分の騎士を墓から動かさせるなと言いつけました。

Lo escribió para que ningún otro autor volviera a robarle el personaje.

ほかの作者に二度と登場人物を盗まれないように、そう書いたのです。

Cuatrocientos años después, la pluma sigue colgada del mismo alambre.

四百年たった今も、ペンは同じ針金に掛かったままです。

Y el hidalgo sigue saliendo al campo cada vez que alguien abre el libro.

そして郷士は、誰かが本を開くたびに、今も野へと出かけていきます。

Basta con empezar por el capítulo primero, que es donde empezaste tú hace noventa lecciones.

第1章から始めるだけでいいのです。九十課前に、あなたが始めたところです。

語彙

始まり

el hidalgo
郷士
madrugador
早起きの人
oxidado
さびた
secarse el cerebro
脳が干からびる
deshacer agravios
不正をただす
enderezar entuertos
ゆがんだものをまっすぐにする
la bacía
床屋の金だらい
el yelmo
兜

道の上のスペイン

el galeote
ガレー船の漕ぎ手(囚人)
el cabrero
山羊飼い
la dueña
年配の付き添い婦人
torcerse una burla
いたずらが裏目に出る
juzgar con tino
的確に裁く
arar
畑を耕す
por su propio pie
自分の足で
de antemano
前もって

結末

renegar de
捨てる、否認する
recobrar el juicio
正気を取り戻す
sosegado
心安らかな
la sepultura
墓
el alambre
針金
la pluma
ペン
sostener
言い張る、主張し続ける
antes que
〜よりむしろ

B2のすべて、そしてその背後にあるコースのすべて

Podía salvarse mintiendo, y no mintió.

Lo escribió para que nadie le robara el personaje.

La burla se les torció, porque el gobernador gobernó bien.

これが最後のレッスンなので、新しい規則はありません。このあとに続くのはB2ブロックの見取り図で、各項目にこの文章から一行ずつ添えてあります。その後ろに、それ以前の四つのブロックの短い見取り図があります。

1. 接続法、今度はより難しい場面で

引き金この文章から
purpose, para queLo escribió para que nadie le robara el personaje.
過去に伝えられた命令Le pidió que siguiera loco un poco más.
de ahí queNadie lo creía, de ahí que nadie lo ayudara.
事実に反する条件Si lo hubiera visto, no lo habría dicho.
前に何もない queQue en paz descanse.

B1の接続法は、望むこと、疑うこと、感じることが中心でした。B2の接続法は、目的、起こらなかったこと、そして主動詞を取り去った文が中心です。二つのブロックの違いを一行で言えば、これに尽きます。

2. 時を四つの角度から同時に

形例役目
imperfectoVivía allí un hidalgo…動かない背景
indefinido…que un día salió al campo.一列に並ぶ出来事
pluscuamperfectoLas armas habían sido de sus bisabuelos.そのすべてより前のこと
condicionalPrometió que volvería a casa.過去から見た未来
condicional compuestoHabría dado un reino si pudiera.実現しなかった未来

3. スペイン語らしく聞こえさせる小さな仕組み

仕組み例得られるもの
accidental seSe le secó el cerebro.誰のせいでもない
cuyoun lugar cuyo nombre no quiso recordar二つの節ではなく一つの節で
接尾辞brazos larguísimos, leóncitos大きさや気持ちを語の中に込める
接続詞como, así que, de ahí que箇条書きではなく段落で
文体agradecería que against oye, pásameその場にふさわしく聞こえる

4. ここまでの道のり

同じ出来事を、このコースの各ブロックならどう語ったか。

ブロック風車
A1Don Quijote es un hidalgo. Hay molinos en el campo. Él cree que son gigantes.
A2Vio unos molinos y creyó que eran gigantes, y atacó al primero.
B1Aunque Sancho le dijo que eran molinos, no quiso creerlo y arremetió.
B2Arremetió sin escuchar a nadie, de ahí que acabara en el suelo con la lanza rota.

四行目が一行目より正しいわけではありません。密度が高いのです。そしてその密度こそ、四つのブロックが積み上げてきたものです。A1は部品をくれ、A2はそれを過去に置き、B1は叙法を加え、B2はスペイン人が一文で言うところを三文も使わずにすむようにしてくれました。

5. 残っているもの、正直に

三つあり、どれも文法ではありません。一つ目は語彙です。ここから先は読むことでしか身につかず、近道はありません。二つ目は速さです。これは、教材の速さではなく、スペイン人が実際に話す速さのスペイン語を聞くことで身につきます。三つ目は、このコースでは与えられなかった部分、つまり他の人たちです。次の一歩は新しいレッスンではありません。本物の本、本物の会話、そして優しく直してはくれない相手の前で間違えることです。

その本をこの作品にしたいなら、注のついた現代版を使い、前編が難しければ後編から先に読みましょう。後編のほうがやさしいからです。書かれた順に『ドン・キホーテ』を読む人はいませんし、一度目で読み終える人もほとんどいません。それは失敗ではありません。急いで読み終えるために書かれた本ではないのです。

針金に掛けられたペン

多くの読者は、死の場面を結末として覚えています。でも、そうではありません。アロンソ・キハーノが死んだあとに、さらに三つの段落があり、それがこの本でいちばん奇妙な部分です。語り手はページをシデ・ハメーテ・ベネンヘーリに渡します。セルバンテスが物語全体の作者ということにするために作り出したアラブ人の歴史家です。そしてシデ・ハメーテは読者に語りかけません。自分のペンに語りかけるのです。ペンを針金に掛け、末永くそこにとどまれと命じ、それを下ろそうとする思い上がった歴史家がいれば追い払えと警告します。

この脅しは、ひとりの男に向けられています。アベリャネーダは1614年に偽の後編を出版し、さらに第三部を約束していました。そこではドン・キホーテが旧カスティーリャへ向かうはずでした。本物の小説の最後のページは、それを不可能にします。主人公は死に、その死は公証人に記録され、ペンは壁に掛かっています。法の後ろ盾のない著作権表示であり、しかも効き目がありました。たいていの著作権表示については、そうは言えません。

そして誰もが引用する一行、このコースの最後の一行です。Para mí sola nació don Quijote, y yo para él. セルバンテスは六十八歳で、貧しく、四十年間書き続けてもたいした報いを得ていませんでした。1615年にこれを出版し、もう一冊書いて、1616年4月に亡くなりました。失敗の多かった仕事人生の終わりに、自分と、自分の作り出した人物とは、互いのために、そしてほかの誰のためでもなく生まれたのだと言っているのです。四百年の読者たちは、あなたも含めて、彼が正しくもあり間違ってもいることを同時に証明してきました。彼ならきっと、それを楽しんだことでしょう。

原文のセルバンテス · «Para mí sola nació don Quijote…»

Para mí sola nació don Quijote, y yo para él: él supo obrar y yo escribir, solos los dos somos para en uno

ドン・キホーテはわたしのためだけに生まれ、わたしは彼のために生まれた。彼は行い、わたしは書くすべを知っていた。わたしたち二人だけが互いのために作られているのだ

これは小説の最後の数行で、後編第74章からです。そしてこのコースの最後の数行でもあります。だから選びました。誰が話しているかに注目してください。セルバンテスではありません。ペンです。語りかけているのはシデ・ハメーテ・ベネンヘーリ、実際にはセルバンテス自身が書いた本の作者ということにするために、彼が作り出したアラブ人の歴史家です。つまり作品全体でいちばん個人的な一文は、架空の作者が持つ架空のペンが語っているわけで、聞こえるとおりに込み入っていて、しかもまったく意図的です。覚えておきたいのは最後の表現です。Ser para en uno は婚礼の決まった言い回しで、互いのために生まれた二人について言うものでした。セルバンテスはそれを、ひとりの作家と、作り出されたひとりの男について使っています。役割の分担にも注目しましょう。él supo obrar y yo escribir、彼は行うことを知り、わたしは書くことを知っていた。さりげなく、難しいほうの半分を登場人物に譲っています。これを書いた男は兵士だったことがあり、レパントで片手の自由を失い、アルジェで五年間奴隷として過ごし、徴税吏としては失敗し、二度投獄され、三十八歳で最初の小説を出しましたが、とくに評判にはなりませんでした。六十八歳でこの本を書き上げ、半年後に亡くなりました。誰も名前を思い出したがらなかったラ・マンチャの村から九十課、ここまで読んできたのなら、もうわたしたちなしで彼を読みに行けるだけのスペイン語が身についています。すべてはそのためでした。

同じスペイン語をセルバンテスの原文で

学んだばかりの項目が原文で使われている一節を、手を加えずに、形をひとつずつ解説しながら読みます。