レベルB2 · 第78課

サンチョ、バラタリアを治める

字の読めない農夫が町の鍵を渡され、訴えを聞き、今も語り継がれる条例を口述します。

ギュスターヴ・ドレの版画:満月の下、石の水槽に置いた鎧のそばで夜通し見張りに立つ騎士。
Gustave Doré, 1863. Public domain.

このレッスンで学ぶこと

読む前に

書類の響きに耳を傾けましょう。公式のスペイン語は、誰が何をするかをほとんど言いません。se ordena、se guarden、consta que と言うのです。行為者は消え、接続法が命令をします。サンチョはこの言葉づかいに自分の言葉で何度も割りこみ、その落差が笑いになっています。

やさしいスペイン語で読む物語

Pocos días después, el duque le dijo a Sancho que le concedía el gobierno de una ínsula.

数日後、公爵はサンチョに島の統治を任せると告げました。

Sancho, que llevaba años esperando aquello, se vistió medio de letrado y medio de soldado.

何年もこの時を待っていたサンチョは、半分は学者風、半分は兵士風の身なりをしました。

Se despidió de su amo y salió con un mayordomo y una docena de criados.

彼は主人に別れを告げ、執事と十人あまりの召使いを連れて出発しました。

La ínsula era en realidad una villa del duque, de unos mil vecinos, tierra adentro.

島とは実は公爵の領地の町の一つで、住民は千人ほど、内陸の奥にありました。

No había mar por ninguna parte, y al lugar le habían puesto el nombre de Barataria.

近くに海などどこにもなく、その土地にはバラタリアという名がつけられていました。

Los vecinos estaban avisados y tenían orden de tratarlo como a gobernador de verdad.

町の人々には知らせが行っていて、彼を本物の総督として扱うよう命じられていました。

Lo recibieron con campanas, salió el regimiento a la puerta y lo llevaron a la iglesia.

人々は鐘を鳴らして彼を迎え、町の役人たちが門まで出てきて、彼を教会へ案内しました。

Después, en la sala del concejo, le entregaron las llaves y lo sentaron en la silla del juzgado.

それから議会の広間で鍵を渡し、裁きの席に座らせました。

En la pared, enfrente de la silla, había unas letras grandes que él no pudo leer.

席の向かいの壁には大きな文字が書かれていましたが、彼には読めませんでした。

Le explicaron que allí constaba el día en que el señor don Sancho Panza tomaba posesión.

それはドン・サンチョ・パンサ殿が就任した日を記録したものだと説明されました。

Sancho contestó que él no tenía don, que se llamaba Sancho Panza a secas, como su padre.

サンチョは、自分にはドンの称号などない、父親と同じくただのサンチョ・パンサだと答えました。

Pidió que constase por escrito que no sabía leer ni firmar, para que nadie lo acusase luego.

あとで誰にも責められないよう、自分が読み書きも署名もできないことを記録に残してくれと頼みました。

Aquella misma tarde le llevaron pleitos, y el primero fue el de un sastre y un labrador.

その日の午後には訴えが持ちこまれ、最初は仕立屋と農夫の争いでした。

El labrador le había dado paño para una caperuza y luego había preguntado si saldrían dos.

農夫は頭巾一つ分の布を渡し、そのあとで二つできないかと尋ねたのです。

Y tres, y cuatro, y cinco, y el sastre había dicho a todo que sí.

さらに三つ、四つ、五つと尋ね、仕立屋はそのすべてに、できると答えていました。

Sacó la mano de debajo de la capa y enseñó cinco caperuzas puestas en los cinco dedos.

彼はマントの下から手を出し、五本の指にはめた五つの頭巾を見せました。

Sancho sentenció que el sastre perdiese las hechuras y el labrador el paño.

サンチョは、仕立屋は仕立て代を、農夫は布を失うべしと裁きました。

Mandó además que las caperuzas se llevasen a los presos de la cárcel, y que no hubiera más.

さらに、頭巾は牢の囚人たちに届けること、それでこの件は終わりにすることを命じました。

Los presentes se rieron, pero no había por dónde discutir la sentencia.

居合わせた人々は笑いましたが、その判決に反論する余地はありませんでした。

Otro día vino un forastero con un caso de escuela sobre un puente y una horca.

別の日には、よそ者が橋と絞首台についての教科書的な難問を持ってきました。

La ley del sitio mandaba ahorcar al que jurase mentira antes de pasar el puente.

その土地の法は、橋を渡る前に偽りの誓いを立てた者を絞首刑にすると定めていました。

Un hombre había jurado que iba a morir en aquella horca, y los jueces no sabían qué hacer.

ある男が、自分はあの絞首台で死ぬために行くのだと誓い、裁判官たちはどうしてよいかわかりませんでした。

Si lo dejaban pasar, había mentido, y si lo ahorcaban, había dicho la verdad.

通せば男は嘘をついたことになり、絞首刑にすれば本当のことを言ったことになるのです。

Sancho dijo que, estando en un fil las razones, lo dejasen pasar libremente.

サンチョは、理屈が五分五分なのだから、自由に通してやるべきだと言いました。

Explicó que su amo le había mandado acogerse a la misericordia cuando la justicia dudase.

正義に迷うときはいつも慈悲のほうに傾けと、主人に言われていたのだと説明しました。

El mayordomo dijo que ni el mismo Licurgo habría dado mejor sentencia.

執事は、リュクルゴス本人でもこれ以上の判決は下せなかっただろうと言いました。

Aquella tarde dictó unas ordenanzas y el escribano las fue poniendo en limpio.

その日の午後、彼は条例を口述し、書記がそれを清書していきました。

Ordenó que no hubiese regatones de comida en toda la ínsula.

島じゅうに食料の転売屋がいてはならないと命じました。

Mandó que se pudiera traer vino de donde se quisiese, declarando el lugar y el precio.

ワインは産地と値段を申告すれば、どこから持ちこんでもよいと定めました。

Al que lo aguase o le cambiase el nombre le costaría la vida.

それを水で薄めたり、名前を偽ったりした者は命で償うことになります。

Rebajó el precio del calzado, sobre todo el de los zapatos, que corría con exorbitancia.

履物、とくに途方もなく高くなっていた靴の値段を下げました。

Puso tasa a los salarios de los criados y prohibió las coplas deshonestas de noche.

召使いの賃金に上限を設け、夜にみだらな歌を歌うことを禁じました。

Ordenó que ningún ciego cantase milagros sin traer testimonio de que eran verdaderos.

盲人は、奇跡が本物だという証明を持ってこなければ、奇跡の歌を歌ってはならないと命じました。

Creó un alguacil de pobres, no para perseguirlos sino para ver si lo eran de verdad.

貧しい人を取り締まるためではなく、本当に貧しいのかを確かめるための、貧民係の役人を置きました。

El escribano lo tituló todo «las constituciones del gran gobernador Sancho Panza».

書記はその全体に「偉大なる総督サンチョ・パンサの法令集」という題をつけました。

Y dice Cide Hamete que en aquel pueblo se guardan todavía y todavía se cumplen.

そしてシデ・ハメーテによれば、その町では今もそれが守られ、今も従われているそうです。

語彙

就任

tomar posesión
就任する
el concejo
町議会
el regimiento
町の役人たち
la villa
城壁のある町
las llaves del pueblo
町の鍵
la silla del juzgado
裁きの席
a secas
ただの、何もつけずに
el linaje
家柄、血筋

書類と法

el escribano
書記
constar
記録されている
poner en limpio
清書する
la ordenanza
条例
el pleito
訴訟
la sentencia
判決
el juramento
宣誓
el testimonio
宣誓した証明

命じられること、禁じられること

el regatón
食料の転売屋
el calzado
履物
la copla
はやり歌
poner tasa
上限を設ける
rebajar
下げる
aguar el vino
ワインを水で薄める
la caperuza
帽子(ふちなし)
la hechura
仕立て代

公文書の話し方

Consta que el señor don Sancho Panza tomó posesión del gobierno.

Ordenó que no hubiese regatones en la ínsula.

Las caperuzas se llevarán a los presos de la cárcel.

スペイン語のお役所言葉は別の言語ではありませんが、これから読むどんな契約書にも、町のお知らせにも、裁判の書類にも出てくる、いくつかの決まった癖があります。その癖を覚えれば、書類は読めるようになります。

その一。行為者が消える

くだけた言い方公式
El gobernador prohíbe las coplas.Se prohíben las coplas.
Guardan esas leyes en el pueblo.Esas leyes se guardan en el pueblo.
Bajamos el precio del calzado.Queda rebajado el precio del calzado.

se prohíben las coplas では動詞が複数形になっていることに注意しましょう。las coplas が主語だからです。これが pasiva refleja で、スペイン語では ser と過去分詞の組み合わせよりずっとよく使われます。

その二。命令は que と接続法でやってくる

書類の中の命令には命令形を使いません。que と接続法を使い、有効な規則なら現在形、命令を伝えるときは過去形にします。ordena que no haya regatones は ordenó que no hubiese regatones になります。この章には伝える形がたくさん出てきます。シデ・ハメーテが、サンチョの定めたことを語っているからです。

その三。丸ごと覚えておきたい決まり文句

言い方出会う場面
hágase constar que以下のことを記録に残す
a los efectos oportunosしかるべき目的のために。スペインの手紙の半分はこれで終わる
el abajo firmante下記署名者
en lo tocante a〜に関しては
so pena de〜の罰則のもとに。法律のスペイン語では今も現役
queda prohibido〜を禁ずる。スペインのあらゆる掲示にある

サンチョはこのどれも一語も読めないのに、読める人たちより上手に治めます。それがこの章の主張で、筋立てだけでなく文法でも語られています。

字の読めない男がうまく治める

バラタリアは、海を取り除き、冗談でくるんだ実在のスペインの町です。名前は barato(安い)と baratar(だまし取る)をかけています。鐘、教会、鍵、席と、サンチョが受ける儀式はどれも、カスティーリャの町で新しい corregidor が就任するときに実際に受けたものとまったく同じです。だからこそパロディが成り立つのです。観客は筋書きを知っていました。

意外なのは条例です。農夫が恥をさらすのを期待していた読者は、その代わりに、短く筋の通った町の政策を目にします。食料取引の仲買人を取り締まる、ワインの輸入は自由にするが産地と値段は申告させる、靴の値段に上限を設ける、賃金表を定める、そして偽の物乞いが本物の物乞いから奪わないように物乞いを調べる。これらは1590年代のカスティーリャの町議会がまさに訴えていたことで、当時は不作と物価高のために、食料政策が国の中心的な政治問題になっていました。ここでのサンチョはおかしな人ではありません。有能なのです。

そしてセルバンテスは、この章を痛烈なものにする一手を打ちます。その法令集は今もその町で守られ、今も従われているというのです。公爵夫妻は、自分の名前も書けない男に総督の地位を与えることを、滞在全体でいちばんの冗談として仕組みました。ところが彼は夫妻よりも上手に治めてしまい、歴史家はそれを事実として記録します。城の誰もそれを認めないので、読者は一人で気づくしかないのです。

セルバンテスの原文で · «él ordenó cosas tan buenas que hasta hoy se guardan…»

él ordenó cosas tan buenas que hasta hoy se guardan en aquel lugar, y se nombran Las constituciones del gran gobernador Sancho Panza

彼はとても良い決まりを定めたので、それは今日に至るまでその土地で守られ、「偉大なる総督サンチョ・パンサの法令」と呼ばれています

これはこの章の最後の文で、冗談全体を静かにひっくり返します。公爵夫妻は余興として、字の読めない農夫に総督の地位を与えました。セルバンテスは歴史家の淡々とした声で、その男の定めた法が今も効力を持っていると報告して、話を締めくくります。それを担うのは二つの se の形、se guardan と se nombran で、どちらも無人称、どちらも cosas に合わせて複数形、そしてどちらもこのレッスンで学ぶお役所言葉そのものです。行為者は文から消えています。それが書類のやり方であり、その結果、功績は誰のものでもなく、記録のものになります。本当の仕事をしているのは Hasta hoy です。架空の島を読者の現在に引きずりこみ、笑えるものなら笑ってみろと挑んでいるのです。

同じスペイン語をセルバンテスの原文で

学んだばかりの項目が原文で使われている一節を、手を加えずに、形をひとつずつ解説しながら読みます。