レベルB2 · 第87課
浜辺での敗北
見知らぬ騎士がバルセロナの浜辺でドン・キホーテを打ち倒し、村へ帰ると約束させます。砂の上に倒れた彼は、嘘をつけば助かったのに、嘘をつきません。

このレッスンで学ぶこと
- もうどうにもならないことを、実際に使われる決まった言い方で、声に出して受け入れる。
- あきらめと義務を区別する。似ていますが同じではありません。
- 信じたことのためにすべてを失ったあとも、その信念を貫く。
読む前に
この章で、小説は笑えるものではなくなります。まず物語として一度読み、次に人々がどう物事を受け入れるかだけに注目して読み直しましょう。スペイン語には、どうにもならないと認めるための決まった言い方がたくさんあり、その半分がここに何らかの形で出てきます。やさしいスペイン語で読む物語
Una mañana temprano don Quijote estaba armado en la playa de Barcelona.
ある朝早く、ドン・キホーテは武具に身を固めてバルセロナの浜辺に立っていた。
Apareció frente a él un caballero con las armas llenas de lunas resplandecientes.
彼の前に、輝く月の模様で覆われた鎧の騎士が現れた。
Dijo llamarse el Caballero de la Blanca Luna y habló muy alto para que todos lo oyeran.
その騎士は銀月の騎士と名乗り、皆に聞こえるよう大声で話した。
Venía a hacerle confesar que su dama, fuera quien fuera, era más hermosa que Dulcinea.
自分の思い姫は、それが誰であれ、ドゥルシネーアより美しいと彼に認めさせに来たのだという。
Puso después las condiciones del desafío, delante del virrey y de mucha gente.
それから副王と大勢の人々の前で、決闘の条件を示した。
Si vencía él, don Quijote dejaría las armas y no saldría de su pueblo en un año.
自分が勝てば、ドン・キホーテは武器を置き、1年間村から出ないこと。
Si vencía don Quijote, quedarían suyos el caballo, las armas y la vida del retador.
ドン・キホーテが勝てば、挑戦者の馬も武具も命も彼のものになる。
Don Quijote aceptó sin discutir nada, salvo un punto pequeño.
ドン・キホーテは何一つ異を唱えずに受け入れたが、小さな一点だけは別だった。
Aquel caballero no podía haber visto nunca a Dulcinea, porque si la hubiera visto callaría.
あの騎士はドゥルシネーアを見たことがあるはずがない。見ていたなら黙っているはずだからだ。
Don Antonio Moreno, que estaba delante, fue nombrado juez del campo.
その場にいたドン・アントニオ・モレノが、決闘の審判に任じられた。
Les señaló el sitio y les repartió el sol, y no hubo trompetas ni ceremonia.
彼は場所を示し、日の光が公平になるよう二人に割り振った。ラッパも儀式もなかった。
Tomaron campo y arremetieron el uno contra el otro sin esperar más.
二人は間合いを取り、待つことなく互いに突進した。
El caballo del de la Blanca Luna era más veloz y llegó bastante antes.
銀月の騎士の馬のほうが速く、かなり先に相手に達した。
Sin tocarlo siquiera con la lanza, que levantó a propósito, lo derribó de puro encuentro.
わざと槍を上げて相手に触れもせず、ただぶつかった勢いだけで打ち倒した。
Rocinante y su amo cayeron juntos, y don Quijote se quedó en la arena sin poder moverse.
ロシナンテと主人はもろともに倒れ、ドン・キホーテは砂の上で身動きできなくなった。
El vencedor le puso la lanza sobre la visera y le mandó confesar lo pactado.
勝者は彼の面頬に槍を当て、取り決めたことを認めるよう命じた。
Don Quijote, molido y aturdido, contestó sin alzar la visera y con voz enferma.
打ちのめされ、意識もかすんだドン・キホーテは、面頬を上げることなく、弱りきった声で答えた。
Hablaba como quien habla desde dentro de una sepultura, y apenas se le oía.
まるで墓の中から話すような声で、ほとんど聞き取れなかった。
Dijo que Dulcinea del Toboso era la mujer más hermosa del mundo.
彼は、トボソのドゥルシネーアこそ世界で最も美しい女性だと言った。
Y que él era el caballero más desdichado de la tierra, que es cosa distinta.
そして自分は地上で最も不運な騎士だと。それはまた別の話である。
No era justo, añadió, que su flaqueza quitara verdad a aquello.
自分の弱さのせいでそれが真実でなくなるのは正しくない、と彼は付け加えた。
Le pidió luego que apretara la lanza y le quitara la vida, ya que le quitaba la honra.
それから、名誉を奪うのなら、槍を突き立てて命も奪ってくれと頼んだ。
El de la Blanca Luna dijo que no, que viviera con su fama entera.
銀月の騎士は断り、名声を損なうことなく生きよと言った。
Le bastaba con que cumpliera lo pactado y no tocara las armas en un año.
取り決めを守り、1年間武器に触れなければそれで十分だという。
Debajo de aquellas armas estaba el bachiller Sansón Carrasco, vecino suyo.
その鎧の下にいたのは、同じ村の学士サンソン・カラスコだった。
Ya lo había intentado meses antes con otro disfraz y había acabado él en el suelo.
彼は数か月前にも別の変装で同じことを試み、そのときは自分が地面に倒れる羽目になっていた。
Esta vez le salió bien, y se lo confesó en secreto a don Antonio aquella tarde.
今回はうまくいき、その日の午後、ドン・アントニオにこっそりそれを打ち明けた。
No lo hacía por burla, dijo, sino por devolver a un hombre honrado a su casa.
からかうためではなく、誠実な男を家に帰すためにやったのだ、と彼は言った。
Don Antonio le contestó que Dios le perdonara el agravio hecho a todo el mundo.
ドン・アントニオは、世界じゅうに対して犯したその過ちを神が許してくださるように、と答えた。
Volver cuerdo al loco más gracioso que había en él no era ningún favor.
この世でいちばん愉快な狂人を正気に戻すことは、少しも親切ではないのだ。
Mientras tanto levantaron a don Quijote y le descubrieron el rostro.
その間に人々はドン・キホーテを起こし、顔を出してやった。
Estaba pálido y sudado, y Rocinante, de puro malparado, no se podía mover.
彼は青ざめ、汗にまみれていた。ロシナンテはひどく痛めつけられて動けなかった。
Lo llevaron a la ciudad en una silla de manos que mandó traer el virrey.
彼は副王が取り寄せた輿に乗せられて町へ運ばれた。
Sancho iba detrás sin saber qué decir ni qué hacer, como si soñara.
サンチョは何を言い、何をすればいいのかもわからず、夢でも見ているように後ろをついて行った。
Veía deshecho todo lo prometido, como se deshace el humo con el viento.
約束されたものがすべて、煙が風に消えるように消えてしまったのを彼は見ていた。
Seis días estuvo su amo en la cama, triste, callado y sin quejarse de nada.
主人は6日間寝床にあり、悲しげに黙りこみ、何一つ不平を言わなかった。
Al séptimo mandó ensillar y tomó despacio el camino de su pueblo.
7日目に馬に鞍を置くよう命じ、ゆっくりと村への帰り道についた。
語彙
決闘の申し込み
- el retador
- 挑戦者
- el desafío
- 決闘の申し込み
- tomar campo
- 位置につく、間合いを取る
- arremeter
- 代金を取る
- derribar
- 打ち倒す
- la visera
- 面頬
- el juez del campo
- 試合の審判
- lo pactado
- 取り決めたこと
倒れたあと
- molido
- 打ちのめされた
- aturdido
- 意識がもうろうとした
- malparado
- ひどい状態の
- la sepultura
- 墓
- la flaqueza
- 弱さ
- la honra
- 名誉、体面
- desdichado
- 不運な、みじめな
- la silla de manos
- 輿(こし)
どうにもならないことを受け入れる
- resignarse
- あきらめる
- conformarse con
- 〜で我慢する
- no hay más remedio
- ほかにどうしようもない
- no queda otra
- ほかに道はない
- aguantarse
- 我慢する
- qué le vamos a hacer
- しかたがない
- tocarle a uno
- (巡り合わせで)誰かに当たる
- cumplir la palabra
- 約束を守る
あきらめ:もうどうしようもないときに言うこと
No hay más remedio que volver al pueblo.
Le tocó perder, y se aguantó.
Por más que quisiera, no podía levantarse.
ドン・キホーテは浜辺でわずか3分のうちにすべてを失い、一度も不平を言いません。そういう態度を表すスペイン語は、話者なら誰もが持っている決まった言い回しの一組で、tener queしか知らない学習者にはどれも言えません。
1. ほかにどうしようもない
| スペイン語 | 英語 | 文体 |
|---|---|---|
| No hay más remedio que volver. | 帰るしかない。 | 中立、いつでも安全 |
| No queda otra que volver. | 帰る以外に道はない。 | 話し言葉、ぶっきらぼう |
| Habrá que volver. | 帰らなければならないだろう。 | 非人称、誰も責めない |
| Es lo que hay. | そういうものだ。 | とても口語的、とても現代的 |
| Qué le vamos a hacer. | しかたがない。 | 肩をすくめる感じ、疑問符はいらない |
どれも接続法ではなく不定詞をとるので簡単です。まず身につけたいのはHabrá queです。hay queの未来形で、誰のせいかを言わずに、ありがたくない必要を告げることができます。
2. 受け入れを表す三つの動詞
| 動詞 | 本当の意味 | 例 |
|---|---|---|
| resignarse a | 悪いことを、もう変わらないものとして受け入れる | Se resignó a no salir de casa en un año. |
| conformarse con | 望んだより少ないもので手を打つ | Se conformó con volver vivo. |
| aguantarse | 我慢して黙る | Perdió la apuesta y se aguantó. |
前置詞に注意しましょう。推測では当てられません。resignarse a、conformarse con。またtocarle a unoはgustarと同じ型で、「巡り合わせでそうなった」という意味です。me tocó a míは「私に当たった」、a cada uno le toca lo suyo。
3. どれほど望んでも
これが接続法をとるもので、ここで最も役に立つ型です。
| スペイン語 | 英語 |
|---|---|
| Por más que quisiera, no podía moverse. | どれほど望んでも、彼は動けなかった。 |
| Por mucho que insistas, no iré. | どれほど言い張られても、私は行かない。 |
| Por muy fuerte que sea, perderá. | どれほど強くても、彼は負けるだろう。 |
| Diga lo que diga, no cambia nada. | 彼が何と言おうと、何も変わらない。 |
最後の型、つまり動詞を接続法で二度繰り返す形は、丸ごと覚える価値があります。pase lo que pase、sea como sea、cueste lo que cueste、digan lo que digan。話し言葉のスペイン語ではいたるところで使われ、考えることは何もありません。四つか五つのかたまりを覚えるだけです。
4. あきらめは義務ではない
Tengo que volverは、義務があることを言います。No hay más remedio que volverは、ほかに出口がないことを言います。前者は規則を受け入れ、後者は事実を受け入れるのです。英語ではどちらもhave toですが、スペイン語は両者を区別します。ドン・キホーテが使うのは後者です。彼は打ち負かされ、家へ帰ります。証人の前で交わした約束が、彼がまだ自分で守れる世界の最後のかけらだからです。
彼が笑えなくなる瞬間
ここまでこの本は、主人公を滑稽に見せるための仕掛けで、読者はどの転倒も笑ってよいことになっていました。この転倒は違います。セルバンテスはその違いを一つの文で作り出します。面頬に槍の穂先を当てられ、ドゥルシネーアが世界で最も美しい女性であることを否定せよと迫られて、彼は凡庸な作家ならひとまとめにしてしまう二つのことを切り分けます。自分の敗北はすぐに認めます。自分は地上で最も不運な騎士で、それに異論はありません。もう一つの主張には手を触れません。その理由として、自分個人の弱さには真実を左右する力などない、と言うのです。砂の上にあおむけに倒れ、打ち負かされ、人前で辱められた男が、自分が失ったものと、もともと自分のものではなかったものとを区別しているのです。
この場面の残酷さは、鎧の中にいるのが誰かにあります。敵でもなく、好敵手でもなく、大学の学位を持つ隣人で、病人本人のためを思って3か月かけてこれを計画してきたのです。狭い意味ではサンソンは正しいのです。ドン・キホーテは60歳近い病人で、鎧を着て馬で歩き回っており、治療とは彼を家に帰すことです。ドン・アントニオの返答は、読者が言いたいけれどうまく正当化できない言葉です。この世でいちばん愉快な狂人を治して世界に過ちを犯したあなたを、神が許してくださるように。
このあとに続くのは寝床での6日間とゆっくりとした帰り道で、小説は二度と勢いを取り戻しません。取り戻すべきではないからです。この浜辺から後は、すべてが余波です。セルバンテスは最後にもう一度彼を勝たせることもできました。そうしなかったこと、それこそがこの本が書かれた世紀を越えて生き残った理由です。
セルバンテスの原文で · «Dulcinea del Toboso es la más hermosa mujer del…»
Dulcinea del Toboso es la más hermosa mujer del mundo, y yo el más desdichado caballero de la tierra, y no es bien que mi flaqueza defraude esta verdad. Aprieta, caballero, la lanza, y quítame la vida, pues me has quitado la honra.
トボソのドゥルシネーアはこの世で最も美しい女性であり、わしは地上で最も不運な騎士だ。わしの弱さゆえにこの真実を損なうのは正しくない。騎士殿、槍を突き立て、わしの命を奪われよ。名誉はすでに奪われたのだから。
後編第64章より。砂の上にあおむけに倒れ、面頬に槍の穂先を当てられた男が、「はい」と言えばすべて終わらせられる状況で口にする言葉です。とても丁寧に組み立てられた文なので、ゆっくり読みましょう。彼は自分のものはすべて認めます。自分は地上で最も不運な騎士で、それは自分についての事実です。彼女については何一つ認めません。そしてその理由は、忠誠ではなく論理です。真実は、それを守る男が馬から落とされたからといって真実でなくなりはしない。ここでのDefraudarは人をだますという意味ではなく、ものの価値を奪うという古い意味で使われています。注目すべき語はflaquezaで、flaco(やせた)から来ています。体の弱さと心の弱さを同時に表し、彼はその両方の意味で使っています。そして嘘を拒んだあと、彼は殺してくれと頼みます。この頼みは芝居ではありません。家へ帰って止まれと告げられたばかりで、それが何を意味するかを彼は正確にわかっています。第1章以来この人物が体現してきたすべてが、公衆の浜辺で、副王の目の前で奪われようとしており、彼は一文で答え、それきり黙り込みます。
