レベルB2 · 第75課
公爵夫人とサンチョ
城の夕食の席では、二種類のスペイン語が話されます。公爵夫妻は完璧な言葉で偽りを言い、サンチョは下手な言葉で本当のことを言います。

このレッスンで学ぶこと
- 一つの会話の中で、二つの異なる言葉づかいを聞き分ける。
- 同じことを改まった言い方とくだけた言い方で言い、それぞれがどんなときにふさわしいかを知る。
- ことわざを一語ずつ訳さずに理解する。
読む前に
まず筋を追って一度読み、次に誰が何を言っているかに印をつけながらもう一度読みましょう。この食卓には二種類のスペイン語があります。一つは長くて抽象的で、過去未来(条件法)と接続法でできています。もう一つは短くて具体的で、ことわざでできています。どちらを信じるべきかは章のどこにも書かれておらず、そこが肝心なところです。やさしいスペイン語で読む物語
Aquella noche se sirvió la cena en una sala grande, con cuatro doncellas en pie.
その夜、大きな広間で夕食が出され、四人の侍女が控えていました。
El duque se sentó a un extremo de la mesa larga y la duquesa al otro.
長いテーブルの一方の端に公爵が、もう一方の端に公爵夫人が座りました。
Sancho, que era escudero y no invitado, se quedó de pie al lado de la puerta.
サンチョは従士で客ではなかったので、戸口のそばに立ったままでした。
Allí se quedó hasta que la duquesa mandó que se sentara con ellos a la mesa.
公爵夫人が一緒にテーブルにつくよう言いつけるまで、彼はそこにいました。
El duque dijo que agradecería mucho que don Quijote se sirviera ocupar la cabecera.
公爵は、ドン・キホーテが上座についてくだされば大変ありがたいと言いました。
Explicó que en aquella casa la caballería andante precede al título y a la sangre.
この館では、遍歴の騎士道が爵位や血筋よりも優先されるのだと説明しました。
Don Quijote respondió que él no merecía tanto ni de lejos.
ドン・キホーテは、自分はとてもそのような扱いに値しないと答えました。
Estuvieron un buen rato cediéndose el sitio con muchas reverencias y muchas palabras.
二人はしばらくのあいだ、何度もおじぎをし、言葉を重ねながら、席を譲り合っていました。
Sancho, entretanto, contó a los presentes una historia de su pueblo.
そのあいだにサンチョは、居合わせた人々に自分の村の話を聞かせました。
Dijo que un hidalgo de allí convidó una vez a comer a un labrador.
村のある郷士が、一度、農夫を食事に招いたのだと言いました。
Los dos se pelearon un rato largo por quién se sentaba primero a la mesa.
二人は、どちらが先に席につくかで長いこと言い争いました。
Al final el labrador se sentó y dijo que ya podían empezar a comer.
結局、農夫が座って、さあ食べはじめましょうと言いました。
Nadie en la sala supo si aquello era un cuento o un consejo.
広間の誰も、それがただの話なのか、それとも忠告なのか、わかりませんでした。
La duquesa le preguntó entonces, con mucha dulzura, por una cosa del libro.
すると公爵夫人が、とても優しく、本の中のあることについて尋ねました。
Quiso saber si era verdad que él había visto a Dulcinea convertida en aldeana.
彼が、村娘に変えられたドゥルシネーアを見たというのは本当なのか、知りたがったのです。
Sancho dijo que sí, que la había visto de lejos, saltando por el campo.
サンチョは、はい、遠くから、野原を跳ねまわっているのを見ましたと答えました。
Añadió, sin que nadie se lo preguntara, que olía un poco a ajos crudos.
そして、誰にも聞かれていないのに、少し生のニンニクのにおいがしたと付け加えました。
Don Quijote se puso muy serio y le pidió que midiera sus palabras.
ドン・キホーテはひどくまじめな顔になり、言葉に気をつけるよう言いました。
Le recordó que estaba delante de señoras muy altas y en una casa que no era la suya.
身分の高いご婦人方の前にいること、ここは自分の家ではないことを思い出させました。
El duque contestó que no, que hablase el escudero como Dios le diera a entender.
公爵は、いや、従士には神さまのお導きのままに話させてやりなさい、と答えました。
Dijo que en aquella mesa se estimaba más la llaneza que el artificio.
この食卓では、技巧よりも飾らなさのほうが重んじられるのだと言いました。
Lo dijo con una cortesía perfecta, y era exactamente lo contrario de lo que pensaba.
完璧な礼儀をもってそう言いましたが、それは彼が考えていることとまるで正反対でした。
Sancho tomó carrerilla en cuanto oyó que podía hablar a su gusto.
好きなように話してよいと聞いたとたん、サンチョは勢いづきました。
Dijo que él era hombre de bien aunque comiese mucho y bebiese algo.
自分はたくさん食べて少々飲みはするが、まっとうな人間だと言いました。
Dijo que quien bien te quiere te hará llorar, y que a buen entendedor pocas palabras.
あなたを本当に愛する者はあなたを泣かせる、とか、賢い人には一言で足りる、とか言いました。
Encadenó cinco refranes seguidos sin que nadie pudiera meter baza en la conversación.
誰にも口をはさませずに、ことわざを五つも立て続けに並べました。
La duquesa reía con la boca pequeña y aseguraba que aquello valía un tesoro.
公爵夫人は口先だけで笑い、これは宝物のような価値があると請け合いました。
Dijo que su gracia y sus sentencias valían más que muchos discursos de letrados.
彼の機知と警句は、多くの学者の演説よりも値打ちがある、と言いました。
Lo decía en el mismo tono cortés con que se habla de un cuadro raro.
珍しい絵について話すときと同じ、礼儀正しい調子でそう言ったのです。
O de un perro pequeño que hace algo que los perros no suelen hacer.
あるいは、犬がふつうはしないことをする小さな犬について話すときのような調子で。
Sancho, encantado, prometió contarle al día siguiente muchísimas más cosas de su pueblo.
サンチョは大喜びで、翌日には村のことをもっともっと話してさしあげますと約束しました。
Cuando acabó la cena, los duques se retiraron a hablar de lo que habían oído.
夕食が終わると、公爵夫妻は聞いたことについて話そうと引き下がりました。
Los criados recogieron la mesa sin hacer ruido y apagaron la mitad de las velas.
召使いたちは音も立てずにテーブルを片づけ、ろうそくの半分を消しました。
Sancho, ya solo, le dijo al mayordomo que aquella era la mejor casa donde había servido.
一人になったサンチョは執事に、ここは自分が仕えた中でいちばんの館だと言いました。
Añadió que ojalá durase la broma un año entero, o dos si podía ser.
そして、この冗談がまる一年、できれば二年続けばいいのにと付け加えました。
La broma iba a durar bastante más de lo que él pensaba aquella noche.
その冗談は、あの夜彼が思っていたよりも、ずっと長く続くことになるのでした。
語彙
城の食卓
- la cabecera
- 上座
- ceder
- 譲る
- convidar
- 食事に招く
- el mayordomo
- 執事
- recoger la mesa
- 食卓を片づける
- la vela
- ろうそく
- retirarse
- 引き下がる
- estimar
- 査定する
二つの話し方
- la llaneza
- 飾らない話しぶり
- el artificio
- 技巧
- la dulzura
- 優しさ
- medir las palabras
- 言葉に気をつける
- la sentencia
- 警句
- el letrado
- 学者
- la gracia
- 機知、おかしみ
- el tono
- 調子、口調
解き放たれたサンチョ
- tomar carrerilla
- 勢いづく
- meter baza
- 口をはさむ
- encadenar
- 立て続けに並べる
- hombre de bien
- まっとうな人間
- a mi gusto
- 好きなように
- el ajo
- ニンニク
- crudo
- 生の
- la broma
- 冗談
一つの食卓に二つの言葉づかい
Agradecería que se sirviera ocupar la cabecera.
Hable el escudero como Dios le diera a entender.
Quien bien te quiere te hará llorar.
言葉づかいの位相は、間違いから正解へと並ぶ目盛りではありません。道具の選び方であり、どちらの方向であれ、合わない道具を使うことが間違いなのです。この夕食は、スペイン語の両極端を並べて見せてくれます。その違いは数えられるほどはっきりしています。
| 特徴 | 公爵夫妻 | サンチョ |
|---|---|---|
| 文の長さ | 長く、節の中に節がある | 短く、次々に付け足していく |
| 法 | いたるところに過去未来(条件法)と接続法 | 直説法と決まり文句 |
| 語彙 | 抽象的:merced, honra, llaneza, artificio | 具体的:ajos, perro, olla, pan |
| 主張の仕方 | 理屈で | ことわざで |
| 呼びかけ | vuestra merced、三人称 | tú、そして口をついて出るもの |
同じことを二通りに言う
| 改まった | くだけた言い方 |
|---|---|
| ¿Sería tan amable de sentarse? | Siéntate. |
| Le agradecería que midiera sus palabras. | A ver qué dices. |
| No me parece del todo conveniente. | Eso no me gusta nada. |
| Sería para mí una gran honra. | Me haría mucha ilusión. |
論拠としてのことわざ
サンチョは理屈を述べず、引用します。スペイン語には何千もの refranes(ことわざ)があり、今も日常的に使われています。英語のことわざよりもはるかに頻繁にです。この章と近くの章から四つ、丸ごと覚えておく価値があります。Quien bien te quiere te hará llorar。A buen entendedor, pocas palabras。Quien quiere lo ajeno se queda sin lo propio。Dos linajes hay en el mundo, el tener y el no tener。訳さず、変えないでください。そのまま正確に引用するか、まったく使わないかのどちらかです。誰もが続きを知っているので、半分言えば十分です。
実際に使うべきもの
どちらの極端でもありません。現代の話し言葉のスペイン語はその中間にあり、知らない人と話すとき、書くとき、仕事のときに、改まったほうへ一歩寄ります。usted を使い、依頼には過去未来(条件法)を使い、確信がないかぎりことわざは使いません。セルバンテスが両極端を書いたのは、そのあいだの落差が笑いになるからであって、どちらかが手本だからではありません。
夕食の冗談は両刃の剣
この場面で、後編は笑いの的を変えます。これまでの笑いは、ドン・キホーテが世界を読み違えることから生まれていました。ここでは世界のほうがわざと彼を読み違え、読者は居心地の悪い立場に置かれます。行儀のよい人々こそが悪いふるまいをしていて、自分の思い姫は生のニンニクのにおいがしたと言う男だけが、食卓でただ一人本当のことを言っているのです。
技巧よりも飾らなさのほうが値打ちがあるという公爵の台詞は、この章でいちばん鋭いものです。それ自体が技巧として語られているからです。彼がサンチョに話し続けてほしいのは、まさにサンチョがおもしろいからで、ほめ言葉は餌なのです。公爵夫人が彼の gracia と sentencias をほめるのは、人が芸をする動物に対してすることと同じです。セルバンテスはそれを一つのイメージ、珍しい犬について話すときの口調で示し、それ以上は何も言いません。
この先どうなるのかを知っておくとよいでしょう。サンチョは冗談が一年続けばいいと願います。実際には何章にもわたって続き、その中で彼は治めるべき島を与えられます。館の人々はそれを最大の冗談のつもりで用意します。ところが彼はその島を立派に治めます。その逆転の仕込みがここ、この夕食の席でなされているのです。ことわざを入れずには一文も言えず、そして今のところ何についても正しい、一人の従士によって。
セルバンテスの原文で · «Por quien Dios es, Sancho, que te reportes…»
Por quien Dios es, Sancho, que te reportes, y que no descubras la hilaza de manera que caigan en la cuenta de que eres de villana y grosera tela tejido
後生だから、サンチョ、慎んでくれ。地金を出すでないぞ。おまえがどれほど粗末な百姓の布で織られているか、知られてしまうからな
後編第31章、食卓でドン・キホーテがサンチョに言う台詞です。言葉づかいの位相について語るのに両方の位相を同時に使っているので、このレッスンが一文に詰まっています。始まりは厳かな誓いの決まり文句 por quien Dios es と、自制を表す動詞 reportarse で、紳士らしく聞こえようとする男の語彙です。そこから要点を伝えるために、機織りのイメージを持ち出します。Descubrir la hilaza は「糸目を見せる」、つまり何かが本当はどんな粗末な素材でできているかを露呈する、という意味で、今のスペイン語でも「本性を現す」という意味で残っています。この比喩は de villana y grosera tela tejido、「粗末な百姓の布で織られた」で締めくくられます。この台詞を居心地の悪いものにしているのは、そしてそれは意図されたものですが、ドン・キホーテ自身が錆びた剣を持つ貧しい田舎郷士でありながら、二人を笑っている二人の貴族の前で、友人に身分について説教していることです。サンチョがただ一人本当のことを言っている部屋で、彼はサンチョを恥じているのです。
