レベルB2 · 第73課
エブロ川の魔法の小舟
ドン・キホーテとサンチョはエブロ川で持ち主のいない小舟を見つけ、乗り込みます。一人は冒険に向かっていると思い、もう一人はずぶ濡れになるだけだと思っています。

このレッスンで学ぶこと
- deber de と不定詞を使って、断定せずに推量する。
- quizá、tal vez、a lo mejor を、それぞれがとる法とともに使う。
- deber de と deber は意味が違うので、混同しない。
読む前に
この文章では、断定されていることがほとんどありません。小舟はそこに置かれたに違いない、二人は何百レグアも航海したに違いない、ひょっとすると宇宙誌学者たちが間違っていたのかもしれない。二人の人物が、川を下るあいだずっとお互いに推量し合っています。スペイン語が推量を示す二つの方法に注目しましょう。一つは動詞句で、もう一つは後に続く部分の法を変える副詞です。やさしいスペイン語で読む物語
Dos días después de salir de la venta llegaron a las orillas del río Ebro.
宿屋を出て二日後、二人はエブロ川の岸に着きました。
El río iba manso y muy ancho, y el agua le alegró la vista a don Quijote.
川は穏やかにとても広く流れていて、その水を見てドン・キホーテは心が晴れました。
Atado a un tronco, sin dueño ni remos, había un barco pequeño y viejo.
木の幹につながれて、持ち主も櫂もない、小さく古い舟がありました。
Don Quijote lo miró un buen rato desde arriba antes de decir nada a su escudero.
ドン・キホーテは従士に何か言う前に、しばらく上からその舟を眺めていました。
Dijo por fin que aquella barca debía de estar puesta allí a propósito para él.
とうとう彼は、あの小舟は自分のためにわざとそこに置かれているに違いないと言いました。
En los libros de caballerías, explicó, un barco vacío nunca está vacío por pura casualidad.
騎士道物語では、空っぽの舟が単なる偶然で空っぽであることは決してない、と彼は説明しました。
Es señal de que alguien necesita al caballero a cien o mil leguas de distancia.
それは百レグア、千レグア離れたところで、誰かが騎士を必要としているしるしなのです。
Sancho contestó que quizá el barco fuese sencillamente de un pescador del pueblo.
サンチョは、ひょっとするとその舟は単に村の漁師のものかもしれないと答えました。
Dijo que los pescadores no suelen encantar nada y que aquello olía a red mojada.
漁師はふつう何かに魔法をかけたりしないし、それは濡れた網のにおいがすると言いました。
Añadió que, si se subían, tal vez acabasen los dos remojados y a pie.
そして、もし乗ったら、二人ともびしょ濡れになって歩いて帰るはめになるかもしれないと付け加えました。
Y que a lo mejor perdían por el camino el caballo y el burro para siempre.
それに、ひょっとしたら途中で馬とロバを永久に失ってしまうかもしれない、とも。
No hubo manera de convencerlo, como no la había habido nunca en asuntos de caballería.
騎士道に関することではいつもそうだったように、彼を説得するすべはありませんでした。
Ataron a Rocinante y al rucio a un árbol de la orilla, bien sujetos.
二人はロシナンテとロバを岸の木に、しっかりとつなぎました。
Les encargaron a los dos animales que tuviesen paciencia y que esperasen allí.
二頭の動物に、辛抱してそこで待っているようにと言い聞かせました。
Después se metieron en la barca, primero el amo y luego el escudero, sin mirar atrás.
それから、まず主人、続いて従士が、振り返りもせずに小舟に乗り込みました。
Don Quijote cortó la cuerda con la espada de un solo tajo.
ドン・キホーテは剣のひと振りで綱を断ち切りました。
La corriente los fue apartando de la orilla despacio, sin ruido y sin remos.
流れは音もなく、櫂もないまま、ゆっくりと二人を岸から遠ざけていきました。
Cuando se alejaron unas veinte varas, Sancho oyó rebuznar al rucio y se puso a llorar.
二十バラほど離れたところで、サンチョはロバの鳴き声を聞き、泣き出しました。
Su amo le dijo que no llorase por tan poca cosa como un burro.
主人は、ロバのようなつまらないことで泣くなと言いました。
Le dijo que a aquellas horas debían de haber navegado ya setecientas leguas.
今ごろはもう七百レグアは航海したに違いない、と彼に言いました。
Añadió que quizá estuvieran pasando en ese mismo momento la línea equinoccial del mundo.
ひょっとすると、ちょうど今、世界の赤道を越えているところかもしれないと付け加えました。
Para comprobarlo, le mandó que se buscase piojos en el cuerpo con mucho cuidado.
それを確かめるために、体にシラミがいないかよく探すように命じました。
Según los cosmógrafos, le dijo, al pasar la línea se mueren todos de golpe.
宇宙誌学者によれば、赤道を越えるとシラミは一斉に死ぬのだ、と彼は言いました。
Sancho se buscó, encontró varios muy vivos y se los enseñó a su amo.
サンチョが探してみると、ぴんぴんしているのが何匹も見つかり、それを主人に見せました。
Dijo que quizá los cosmógrafos no hubiesen viajado nunca en una barca prestada.
宇宙誌学者たちは借り物の小舟で旅をしたことがないのかもしれない、と彼は言いました。
Río abajo aparecieron unas aceñas, que son unos molinos de agua puestos en la corriente.
川下に aceñas が見えてきました。流れの中に据えられた水車小屋のことです。
Don Quijote las tomó por una ciudad grande o por un castillo con torres.
ドン・キホーテはそれを大きな町か、塔のある城だと思い込みました。
Dijo que allí dentro debía de estar preso algún caballero de mucha importancia y linaje.
あの中にはきっと、身分も家柄も高い騎士が捕らわれているに違いない、と言いました。
Se puso de pie en la barca y pidió a gritos que soltasen al cautivo.
彼は小舟の上に立ち上がり、捕らわれ人を解き放てと大声で求めました。
Los molineros salieron con pértigas, blancos de harina de la cabeza a los pies.
粉屋たちが、頭から足まで小麦粉で真っ白になって、竿を持って出てきました。
Gritaban que se apartasen de allí enseguida o los harían pedazos las ruedas del molino.
すぐにそこから離れろ、さもないと水車に粉々にされるぞ、と叫んでいました。
La barca se metió entre las palas, se rompió por la mitad y volcó.
小舟は羽根板のあいだに入り込み、真っ二つに割れてひっくり返りました。
Sacaron a los dos del agua a tiempo, calados hasta los huesos y sin sombrero.
二人は間一髪で水から引き上げられました。骨までずぶ濡れで、帽子もなくしていました。
Don Quijote pagó cincuenta reales por el barco roto sin discutir el precio con nadie.
ドン・キホーテは誰とも値段を言い争わずに、壊れた舟の代金として50レアルを払いました。
Dijo que aquello debía de ser obra de dos encantadores contrarios entre sí mismos.
これは互いに敵対する二人の魔法使いのしわざに違いない、と彼は言いました。
Uno le ofrecía la aventura y el otro se la deshacía antes de acabarla.
一人が冒険を差し出し、もう一人がそれを終える前に台無しにするのだ、と。
語彙
川と小舟
- manso
- 穏やかな、おとなしい
- la corriente
- 流れ
- el remo
- 櫂
- la vara
- 裏庭、家畜の囲い
- volcar
- ひっくり返る
- remojado
- びしょ濡れの
- calado hasta los huesos
- 骨までずぶ濡れの
- río abajo
- 川下へ
水車小屋
- la aceña
- 川の水車小屋
- el molinero
- 粉屋
- la pértiga
- 長い竿
- la harina
- 小麦粉
- la pala
- 水車の羽根板
- la rueda
- 車輪、水車
- hacer pedazos
- 粉々にする
- apartarse
- 離れる、よける
わからないまま推量する
- deber de
- 〜に違いない、たぶん
- quizá
- たぶん
- tal vez
- もしかすると
- a lo mejor
- ひょっとしたら
- el cosmógrafo
- 宇宙誌学者
- la línea equinoccial
- 赤道
- el piojo
- シラミ
- rebuznar
- (ロバが)鳴く
推量:deber de、quizá、tal vez
Aquella barca debía de estar puesta allí a propósito.
Quizá el barco fuese de un pescador del pueblo.
A lo mejor perdían el caballo y el burro.
スペイン語にはそう思うけれど確かではないと言うための方法がずらりとそろっていて、この章ではそのほとんどが使われています。どちらの登場人物も、何が起きているのかまるでわかっていないからです。
1. deber de plus infinitive
La barca debía de estar puesta allí a propósito. これは推論を表す英語の must、つまり「〜に違いない」にあたります。不定詞をとり、どこの法にも影響しません。過去のことなら deber de haber と過去分詞を使います。debían de haber navegado setecientas leguas。
| スペイン語 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| debe de estar preso | 捕らわれているに違いない | 推量 |
| debe estar preso | 捕らわれているべきだ | 義務 |
この表は十分かけてじっくり読む価値があります。違いはすべて de という一語にあります。実際には現代スペイン語ではこの二つがしょっちゅう混ざっていて、推量に debe estar が使われるのも耳にするでしょう。けれども de をつけて書けば、誤解されることは決してありません。
2. quizá, tal vez, acaso, posiblemente
これらは文頭に来ると接続法をとります。Quizá el barco fuese de un pescador。動詞のあとに来ると直説法に戻ります。El barco era de un pescador, quizá。quizá と quizás はどちらも正しく、意味も同じです。
3. a lo mejor, igual, lo mismo
こちらは口語的な表現で、直説法をとります。これには誰もが驚きます。A lo mejor perdían el burro. 話し言葉に属する表現で、この意味での igual や lo mismo はかなりくだけた言い方です。
4. 推量の未来形と過去未来(条件法)
スペイン語は、ふつうの時制を使って推量することもできます。英語にはできないことです。¿Qué hora será? は未来のことを尋ねているのではなく、今何時だと思う? という意味です。そして ¿Dónde estaría el burro? は ロバはどこにいたんだろう? という意味になります。今のことの推量には未来形、そのときのことの推量には過去未来(条件法)を使います。
二十年後の同じ風車
セルバンテスはわざと同じことを繰り返しています。前編でいちばん有名な場面では、風車が巨人に変わりました。ここ後編では、水車小屋が捕らわれの騎士のいる城になり、読者はそのこだまを感じるよう仕向けられています。変わったのはその周りのすべてです。前編では騎士は一人で突撃し、馬から投げ出されます。ここでは、舵も取れない川の上、代金も払っていない舟に乗っていて、冒険はけがではなく50レアルの請求書で終わります。
途中にある科学の冗談も、実際にあった話です。当時の船乗りたちは、船が赤道を越えるとシラミが死ぬと本気で信じていて、ドン・キホーテが持ち出す確かめ方は航海の手引書にも載っていました。おかしいのは、彼がそれを信じていることではなく、大洋を渡るための手順を、アラゴンの川の上で、まだ鳴き声が聞こえるロバから二十バラのところで試していることです。
最後に彼が考え出す、敵対する二人の魔法使いは、後編でいちばん役に立つ発明です。どんな失敗も、どんな信念も揺るがさずに説明できるからです。一人の魔法使いが冒険を差し出し、もう一人がそれを台無しにする。そうすれば騎士は何ひとつ間違えていないことになります。これは閉じた体系で、セルバンテスは主人公が川の水を岸にしたたらせながら、私たちの目の前でそれを組み上げるのを見せてくれます。
セルバンテスの原文で · «en esta aventura se deben de haber encontrado dos…»
en esta aventura se deben de haber encontrado dos valientes encantadores, y el uno estorba lo que el otro intenta
この冒険では、二人の強大な魔法使いがぶつかり合っているに違いない。一方がしようとすることを、もう一方が邪魔するのだ
後編第29章で、買い取ったばかりの舟の横、岸辺にずぶ濡れで立ったまま言う台詞です。文法の面では、このレッスンが一つの節に収まっています。deben de haber encontrado は、deber の推量の形で、de もきちんと残っています。そのあとに完了不定詞が続くのは、推量の対象がすでに終わったことだからです。セルバンテスはこの構文を正しく使っていますから、みなさんもそうしましょう。この文が小説の中で果たす役割は、さらに興味深いものです。ドン・キホーテはこれで二度続けて、人前で、しかも高くつく形で間違えました。それでも何ひとつ疑わず、二人目の魔法使いを考え出します。一人が冒険を用意し、もう一人がそれを台無しにする。つまり成功はすべて一人目の証拠になり、失敗はすべて二人目の証拠になります。もう何ひとつ彼に不利に働くことはありません。この本でいちばん整った自己弁護で、それは彼に不利な証拠がもう無視できなくなった、まさにそのときに現れるのです。
