C2 · 後編、序文

犬をふくらませる狂人:1615年の序文

後編の序文は偽の続編が出たあとに書かれ、読者はみな、セルバンテスがその作者を攻撃するものと思っていました。ところが彼が語るのは、葦の管で犬をふくらませていたセビリアの狂人の話です。このユニットで扱うのは、語り手がひと言も口にしない悪口を、物語がどう運ぶのかということです。

セルバンテスが書いたままの抜粋

ミゲル・デ・セルバンテス『ドン・キホーテ』後編、序文。原文のまま。

Había en Sevilla un loco que dio en el más gracioso disparate y tema que dio loco en el mundo. Y fue que hizo un cañuto de caña puntiagudo en el fin, y, en cogiendo algún perro en la calle, o en cualquiera otra parte, con el un pie le cogía el suyo, y el otro le alzaba con la mano, y como mejor podía le acomodaba el cañuto en la parte que, soplándole, le ponía redondo como una pelota; y, en teniéndolo desta suerte, le daba dos palmaditas en la barriga, y le soltaba, diciendo a los circunstantes, que siempre eran muchos: ''¿Pensarán vuestras mercedes ahora que es poco trabajo hinchar un perro?''» ¿Pensará vuestra merced ahora que es poco trabajo hacer un libro?

セビリアにひとりの狂人がいて、世の狂人がかつて陥ったなかでもいちばんおかしなたわごとと妄執に陥った。それはこうだ。先をとがらせた葦の管をこしらえ、通りでもどこでも犬をつかまえると、片方の脚を足で押さえ、もう片方を手で持ち上げ、できるかぎりうまく管をある場所に差しこみ、息を吹きこんで犬をボールのようにまるくふくらませるのだった。そうしておいて、腹を二度ぽんぽんとたたいて放してやり、いつも大勢いる見物人にこう言うのだった。皆さまがたは、犬をふくらませるのがたやすい仕事だと今でもお思いですかな。あなたさまは、本を一冊書くのがたやすい仕事だと今でもお思いですかな。

同じ内容を、今日書かれるスペイン語で

二つを並べて読んでみましょう。両者の間で変わったことが、このレベルの学習内容です。

Había en Sevilla un loco al que le dio por el disparate y la manía más graciosos que ha tenido ningún loco en el mundo. Y fue que hizo un tubo de caña afilado por un extremo, y, en cuanto pillaba algún perro en la calle, o en cualquier otro sitio, le sujetaba una pata con el pie y le levantaba la otra con la mano, y como mejor podía le metía el tubo por donde, soplando, lo dejaba redondo como una pelota. Y cuando lo tenía así, le daba dos palmaditas en la barriga y lo soltaba, diciendo a los presentes, que siempre eran muchos: ¿Pensarán ustedes ahora que es poco trabajo hinchar un perro? ¿Pensará usted ahora que es poco trabajo hacer un libro?

形ごとの変化

原文現在なぜ大事か
dio enle dio pordar en algo は、何かを思いこむ、取りつかれるという意味です。le ha dado por ahí という言い方に今も生きています。
temamanía妄執という意味の女性名詞としての tema です。今は男性名詞で、テーマという意味です。
cañutotubo, canuto葦をひと節切ったもの。今でも canuto と言います。
en cogiendoen cuanto cogíaen と現在分詞で「〜するとすぐに」。話し言葉からは消えました。
con el un piecon un pieun の前に冠詞がついたもので、二本の足のうちの片方という意味です。
le cogía el suyole sujetaba la patasuyo がすでに話に出ている名詞 pie の代わりをしていて、それを犬に当てはめています。
en la parte quepor donde名指しできない場所です。この婉曲表現が冗談になっています。
desta suertede esta manerasuerte は「やり方」の意味で、「運」ではありません。
circunstantespresentesまわりに立っている人々。学者風の言葉で、今ではまれです。
vuestras mercedes ... vuestra mercedustedes ... usted狂人は群衆に複数形で話しかけます。セルバンテスは読者に単数形で向き直ります。

構文

この逸話は、現在分詞と y でつながれた長いひとつの物語文です。en cogiendo, soplándole, en teniéndolo, diciendo。文は狂人とまったく同じ速さで進みます。そして狂人の問いで閉じ、セルバンテスはその問いを、名詞をひとつだけ変えて一語一語くり返します。perro が libro になり、複数の vuestras mercedes が単数の vuestra merced になるのです。要点はすべてこの置き換えにあり、それは一度も説明されません。

スペイン語の読者に聞こえるもの

描かれている男は偽の後編の作者アベリャネーダですが、セルバンテスはそうとは一言も言いません。彼は読者に、その男を侮辱するつもりはないと言ったばかりで、その約束を文字どおり守ります。代わりに彼がするのは、小さなものに葦の管で大量の空気を吹きこみ、その苦労に喝采を期待する男の話をして、それから本を書くのはたやすいことかと読者に尋ねることです。本の中でもっとも洗練された悪口で、しかも侮辱の言葉はひとつも入っていません。

この講座のどこでこの準備ができるか