C2 · 後編 第5章
翻訳者が偽物だと考える章
後編第5章は、翻訳者の注記で始まります。サンチョの話し方がうますぎるので、この章は偽物だと思う、というのです。それでも語り手はこの章を載せます。これは文体をめぐって本書が自分自身と議論している場面であり、読者と物語のあいだにどれほど多くの声が立っているかを、もっとも凝縮して示す例です。
セルバンテスが書いたままの抜粋
ミゲル・デ・セルバンテス、後編 第5章。原文のまま。
(Llegando a escribir el traductor desta historia este quinto capítulo, dice que le tiene por apócrifo, porque en él habla Sancho Panza con otro estilo del que se podía prometer de su corto ingenio, y dice cosas tan sutiles, que no tiene por posible que él las supiese; pero que no quiso dejar de traducirlo, por cumplir con lo que a su oficio debía; y así, prosiguió diciendo:) Llegó Sancho a su casa tan regocijado y alegre, que su mujer conoció su alegría a tiro de ballesta; tanto, que la obligó a preguntarle: — ¿Qué traés, Sancho amigo, que tan alegre venís?
(この物語の翻訳者は、この第5章を書くところまで来ると、この章は偽作だと思うと言っている。サンチョ・パンサが、その乏しい知恵から期待できるのとは違う文体で話し、あまりに細やかなことを言うので、彼がそれを知っていたとは思えないというのだ。けれども、自分の務めとして果たすべきことを果たすため、訳さずにおくことはしたくなかった。そこで、こう語りながら先を続けた。)サンチョはたいそう陽気でうれしそうに家に帰ったので、妻は弩の矢の届くほど離れたところからでも彼の喜びが見てとれた。あまりのことに、妻はこう尋ねずにはいられなかった。あんた、何を持ってきたの、サンチョ、そんなにうれしそうに帰ってくるなんて。
同じ内容を、今日書かれるスペイン語で
二つを並べて読んでみましょう。両者の間で変わったことが、このレベルの学習内容です。
(Al llegar a este quinto capítulo, el traductor de esta historia dice que lo considera falso, porque en él Sancho Panza habla con un estilo distinto del que cabía esperar de su poca inteligencia, y dice cosas tan sutiles que no le parece posible que él las supiera. Pero no quiso dejar de traducirlo, para cumplir con lo que le exigía su oficio, y así siguió diciendo:) Llegó Sancho a su casa tan contento y alegre que su mujer notó su alegría desde muy lejos, tanto que la obligó a preguntarle: ¿Qué traes, Sancho, amigo, que vienes tan contento?
形ごとの変化
| 原文 | 現在 | なぜ大事か |
|---|---|---|
| le tiene por apócrifo | lo considera falso | Tener por で「…と見なす」。そして物を指す le。現代では lo だけが正しい形です。 |
| apócrifo | falso, no auténtico | 正典の外にある文書を指す言葉で、のちにセルバンテスが偽の後編について使うことになる言葉でもあります。 |
| del que se podía prometer | del que cabía esperar | Prometerse algo で「それを期待する」。今でも使えますが、改まった言い方になっています。 |
| corto ingenio | poca inteligencia | 乏しい知恵。ここでもまた、題名にある ingenio という言葉です。 |
| no tiene por posible que él las supiese | no le parece posible que las supiera | 否定された可能性のあとの接続法で、-se の形。 |
| a tiro de ballesta | desde muy lejos, a la legua | Measured in crossbow range. Today people say se nota a la legua. |
| traés | traes | traer の vos の形で、traéis がすり減ったもの。今日のアルゼンチンのボセオとまったく同じ形です。 |
| venís | vienes | またしても vos で、専用の動詞の形を伴っています。村の夫婦のあいだでは、これがごく普通の形でした。 |
構文
この注記は初めから終わりまで間接話法です。dice que le tiene, no tiene por posible que supiese, no quiso dejar de traducirlo。語り手自身が断言していることは何ひとつありません。どの意見も翻訳者のものであり、その言葉を伝えているのは、モーロ人の歴史家の手稿をもとに作業している編者なのです。そして括弧は prosiguió diciendo で閉じられるので、翻訳者が疑っている章は、結局その翻訳者の声で手渡されるのです。
スペイン語の読者に聞こえるもの
これは文体を証拠として使う冗談です。翻訳者の論拠は純粋に文体上のものです。このサンチョは話し方がうますぎる、だからこのサンチョは本物ではない。学者が偽作を暴くときに使う論法を、小説の中で、実在しない人物に当てはめているのです。五十章以上あとで、セルバンテスは実在の偽作、アベジャネーダの名で出版された後編を、同じ理由で攻撃することになります。あちらのサンチョは別人だ、と。ここで読者は、どちらが本物かを決めるよう求められますが、示される証拠は彼の話し方だけです。そこでテレサが traés と venís で口を開き、村が戻ってくるのです。
この講座のどこでこの準備ができるか
- 台所のスペイン語とことわざ第59課サンチョとテレサの言い合い
